何か問題が起きれば、教育関係者も政治家も「体罰は悪」と建前を繰り返すが、ほとぼりが冷めればまた黙認と隠蔽を繰り返す。現に、桜宮高校の体罰自殺事件が大騒動となっていたさなかに、別の体罰事件を起こした教師がその“腕”を買われて別の学校にヘッドハントされていた──。ジャーナリストの鵜飼克郎氏がレポートする。
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1月23日、大阪産業大学附属高校硬式野球部の元部長だった50代の男性教諭A氏が、練習中に部員を殴ったとして暴行容疑で書類送検された。
体罰を受けた生徒と両親は学校とA氏らを相手取り、約300万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。この生徒が同校にスポーツ推薦で入学したのは一昨年4月。入部当初から練習中にA氏らから繰り返し罵声を浴び、馬乗りになって殴るなどの体罰を受けたというのが生徒側の主張だ。生徒は昨年6月にうつ病と診断され、9月に退学した。今年に入ってA氏は同校を依願退職した。
そのA氏がこの2月、同じ大阪府内の私立B高校に教諭として勤め始めたことはどのマスコミも報じていない。B高の野球部員父兄が明かす。
「副校長がA氏と旧知で、その“指導力”を買って引っ張ってきたと聞きました。教諭になる少し前、まず1月に学校敷地内にある野球部寮の新しい寮監として紹介されました。いずれ野球部のコーチも務めるとのことで、その時は前の学校の事件については知らされませんでした」
同じ大阪にある桜宮高校バスケ部で、体罰を受けた2年生が自殺し大騒動となっていた、まさにその頃の出来事だ。
B高はかつては甲子園に出場した強豪として知られたが、近年は野球部の成績は振るわない。A氏は同校でどのような指導をしているのか。
「寮監として赴任した直後の1月中、寮で部員がA氏に殴られ、担任に相談するという一件がありました。『大産大附属高の元野球部長が部員への暴力で書類送検』という報道が出たのはその後のことで、経歴などからA氏のことではないかと騒ぎになり、父兄が説明を求めたのです。学校側は事実を認めた上で、『(A氏を)十分に監督する』と説明しましたが、わざわざ問題教師を雇う必要があるんでしょうか?」(同前)
問題を起こした学校を辞め、すぐに移ったB高で直後に鉄拳制裁をしている以上、A氏に事件への反省があるのか極めて疑わしいし、この時点でなおA氏をかばうB高にも体罰容認の姿勢が垣間見える。
B高を訪れるとA氏を“ヘッドハント”した副校長が応対。その答えはあまりに赤裸々な「現場の本音」だった。
「私もうちの校長も元々Aと同じ職場で、Aが非常にしっかりした信頼できる人間だとわかっています。1月にあった件(寮での体罰)は2回確認しています。朝、起きてこなかった生徒の頭をゲンコツでゴツンとやるなどした。Aには注意しますが、生徒はもう一度頑張るので指導してほしいと言っている。保護者も鍛えてほしいと言っています。基本的にはやりませんが、Aぐらいの熱血でないと寮生活指導ができないのも事実だ。
大産大附属高の生徒は、体罰ではなく部内のいじめで学校を辞めたと確認している。Aは処分を受け、既に終わったことと理解しています。体罰への厳しい論調は橋下徹市長の追及が始まってからでしょう。では聞きますが、法律に何をやってはいけないと具体的に書いていますか? それじゃ現場は困るわけです」
法律にははっきりと、「(教員は)体罰を加えることはできない」(学校教育法第11条)とある。文科省通知でも、もちろんゲンコツで殴ることは禁じられている。B高の見解はいずれとも相容れない。
A氏は2月から正式に教諭として採用され、野球部のコーチになるという。
※SAPIO2013年4月号