韓国のGDP(国内総生産)の2割以上を稼ぎ出すのがサムスングループだ。韓国経済の“躍進”を牽引したサムスンもまた、内憂外患の苦しみを抱えている。サムスンが韓国国内で意外なほど嫌われ者だと解説するのは柳町功・慶應義塾大学総合政策学部教授(経営学)だ。
「サムスンは数字の上では韓国経済に大きく貢献しているが、国内の雇用ではごく一握りのサムスン社員を除けば、待遇のよくない下請け、中小企業の比重が大きい。多くの国民は自分たちが恩恵を享受できない中でサムスンが独り勝ちしていると感じていて、反発が強い。
だから労働災害などの問題が表面化すると、世論は反サムスンで激しく燃え上がる。生産強化を猛スピードで進めた結果、サムスンは従業員の安全対策で不十分な点も少なくないので、裁判に発展するケースも多い」
2011年にサムスン電子の半導体工場の従業員に白血病が相次ぎ、裁判所が工場勤務との因果関係を認める判決を下して大問題となったが、中間層以下はそうしたきっかけさえあれば猛烈なサムスン叩きに走り出す状況なのだ。
国内で反感が強まる一方、国外でのビジネスも難関が待ち受ける。ウォン高による影響に加え、サムスンは今、収益構造の抜本的変革を迫られている。世界各国でアップルと特許侵害訴訟を繰り広げ、その影響からかアップルはiPhoneなど主要商品の部品調達先からサムスンを外す動きを見せており、サムスンの半導体売上高は2013年に大きく減るとされる。部品供給メーカーとしての比重が減り、機器メーカーとして勝負しなければならなくなるわけだ。
「これまでのサムスンにはクリエイティブな力はなかった。テレビもスマホもタブレットも、サムスンが創造した市場ではない。日本やその他の国のメーカーが作り出した市場に後発で入り、ダイナミックな投資で競争に勝ってきた。しかし、これからは自らが新しいものを生み出さなくてはならない。応用研究に比べ基礎研究が弱いという問題意識は内部にもあるものの、解決策はまだ見えてこない」(柳町氏)
グループ中核企業のサムスン電子は昨年も過去最高益を大きく更新したが、内外に潜む問題が表面化すれば、我が世の春は長くは続かない。
※SAPIO2013年4月号