安倍晋三首相の特使として訪露しプーチン大統領と会談した森喜朗・元首相は、どのようなメッセージをロシア側に伝え、どんな反応を得たのか。対ロシア外交の第一線で活躍してきた佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)の解説である。
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2月20~22日、安倍晋三首相の親書を携行し、首相特使として森喜朗元首相が訪露した。森氏は、ロシアのプーチン大統領と最も親しい日本の政治家だ。森氏が対露外交に強い思いを持っていることは、22日にモスクワ国際関係大学(MGIMO)で行なわれた講演の結びで、こう述べているところに端的に表われている。
「雄大な歴史観と高度な思想をもって領土問題を解決し、懸案の日ロ平和条約を締結し、その上に立って、日ロ間の政治、経済、学術、技術、文化、スポーツ、あらゆる分野での交流を飛躍的に進展させ、しかも世界の平和と発展に寄与する、これが私の生涯の最後の仕事だと心に定めています。それを果たした後、父と母の眠るシェレホフの墓地に私も共に眠る、これが私の覚悟であることを申し上げて、講演を終わらせて頂きます」
MGIMOからは、外交官やビジネスマンだけでなくSVR(対外諜報庁)に就職する者も多い。森氏の父・茂喜氏は、ソ連時代からロシアとの交流に尽力し、遺骨が東シベリア・イルクーツク市郊外のシェレホフに分骨されている。
遺言に従って、森氏の母・秋子氏の遺骨もそこに分骨された。将来のロシアのエリートに対し、森氏は「私はロシアに骨を埋める」と宣言したのである。森氏の発言は聴衆に強い感銘を与えた。
※SAPIO2013年4月号