【書評】『ローカル線で 行こう!』真保裕一/講談社/1575円
【評者】川本三郎(評論家)
いま鉄道を語ることは盛んだが他方ではローカル鉄道の経営はますます厳しくなっている。東日本大震災のあとJR山田線と三陸鉄道南リアス線は不通のまま。北海道ではいずれ江差線の木古内-江差間が廃線になるという。
そんななかローカル鉄道を応援する愉快な小説が登場した。宮城県内を走る「もりはら鉄道」の奮闘物語。架空の鉄道だが二〇〇七年に廃線になったくりはら田園鉄道を思わせる。
もり鉄は国鉄から第三セクターになった。十七駅とこぶり。かつては沿線に炭鉱があったが、それが閉山してから鉄道も沿線の町も寂れてゆく一方。乗客は年寄りばかり。五十八人の社員も覇気をなくしている。年間赤字は二億円。いつ廃線になってもおかしくない。
そこに会長(町でスーパーも経営する)の英断で、三十一歳の女性(独身)が社長に就任する。新幹線の車内販売で抜群の売上げを誇っていた女性。その実績が買われた。この主人公が魅力的。就任するや次々に新企画を打出す。女性であることを武器に「客寄せパンダ」に徹し、列車内で就任記者会見を行なうなど金をかけずに話題を作ってゆく。住民と協力しイベント列車を走らせる。派手なことをする一方で、汚ないトイレの改修という地味な努力も怠らないのが素晴しい。
新社長の牽引力で社内の空気が変わる。活気づく。しがらみのない若い女性社員が生き生きとしてくる。このあたりプロジェクトXの面白さ。小さな組織ほどトップが変わると社内が激変する。
はじめは女性社長に違和感を持っていた県庁から出向の副社長(やはり三十代)も次第に社長の熱気に巻きこまれてゆく。順風満帆。そこに思わぬ事故が相次ぐ。列車の電源コードが切断される。無人駅の駅舎で小火が出る。ついには崖崩れが起きる。誰が何のために妨害するのか。あやうし女性社長! 「鉄道は、沿線住民の人生を乗せてもいるんだ」の心意気が鉄道を支えてゆく。
※週刊ポスト2013年3月22日号