名優たちには、芸にまつわる「金言」が数多くある。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、その言葉の背景やそこに込められた思いを当人の証言に基づきながら掘り下げる。今回は、映画史にその名を残す美形スター、市川雷蔵の意外な演技観を紹介する。
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市川雷蔵。1969年に37歳の若さで逝去した、映画史にその名を残す美形スターである。暗い影を負った儚さの漂う端正な顔立ちは、代名詞ともいえる『眠狂四郎』をはじめとするニヒルな役柄にピッタリで、死後40年以上を経た現在でもカリスマ的な人気を誇っている。
そんな雷蔵が志していたのは、日本映画を世界と渡り合えるものにしていくことだった。
「『人間と神』というテーマのものをやりたい。(中略)根本的にアメリカ人と日本人の違いは、宗教にあるんですよ。日本では、中身はなく儀式的な宗教なんですが、むこうではそれが生活の一部ですね。
国と人間、人と人のつながり、それぞれ宗教というのが入っている。僕は、日本という国を再認識して、日本をもう少し立派にするのに考える必要があると思いましたねェ」
「経営者は日本の映画を小さなきたない映画館で封切って、外国の映画を立派な所でやる、すべてこういう考えはよくないですよ」(『雷蔵、雷蔵を語る』・飛鳥新社刊)
※週刊ポスト2013年3月22日号