国民一人ひとりに番号を付けて納税情報や年金などの社会保障情報を一元的に管理する「マイナンバー制度」導入に向け、昨年11月の衆院解散でいったん廃案となった関連4法案が復活して、今国会に提出された。2015年6月に番号を交付し、2016年1月からの利用開始を目指すという。その問題点を、大前研一氏が解説する。以下は、大前氏の指摘である。
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現在検討されているのは住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)をベースにした世界最悪の行政システムであり、このマイナンバー法案は天下の悪法といっても過言ではない。
マイナンバー制度の目的は、国民全員に強制的にIC カードを持たせて、今は各省庁や自治体が別々に管理している国民の情報を国がまとめて管理することだ。その導入に要する費用は5000億円超とも報じられている。だが、そういう政治家と役人が主導した“上から目線”のシステムでは、壮大な無駄が生じる。
悪しき前例がある。前述の住基ネットや外務省の「パスポート電子申請システム」などだ。
2003年に本格稼働した住基ネットは、従来のITシステムと同様、自治体ごとに富士通、NEC、日立などの“ITゼネコン”がバラバラにシステムを構築しているため、莫大なコストがかかっているうえ、個人情報漏洩などをめぐる反対運動も根強くあって、利用者は非常に少ない。
2004年3月にスタートしたパスポート電子申請システムにいたっては、2005年末までの利用者がわずか133人で、その間の運用コストが21億円余。パスポート1冊あたり1600万円もの維持費がかかり、2006年度であえなく廃止された。
電子政府化は「行政コストを圧倒的に削減すること」に主眼を置くべきだ。つまり、国が国民を管理するというお上目線の発想ではなく、国民の利便性を高めるためにはどうすればよいかという生活者目線の発想でなければならない。したがって、これを実行する時は役所の整理統合や公務員の大幅な人員削減を伴うことが大前提だ。
では、具体的にどうするのか? まず、コストが高いだけのITゼネコンは使わず、どういう機能のカードがよいか、国民から広く意見を募る。それを基に、役所や政治家ではなく、国民の代理者のオンブズマンがカードの概要を決める。
そして、そこが定めたスペックに対して国内外からコンペでシステムを公募する。クラウドソーシングで世界中のアイデアを競わせるのだ。そうすれば5000億円などというとんでもない費用はかからず、おそらく数10億円で完成するだろう。システムの運用やメンテナンスも、クラウドコンピューティングで行なえば、非常に安くできるはずだ。
※週刊ポスト2013年3月22日号