三大予備校の駿台予備学校、河合塾、代々木ゼミナールに加え、現役高校生への指導に強い東進ハイスクールをあわせて大学受験は4メガの時代と言われている。全国展開や衛星授業による地方への浸透で盤石に見えるこれら4メガが、大学受験以外の分野へも拡大する動きを活発化させている。
つい先日、駿台予備校を運営する駿河台学園と、中学受験専門の学習塾である兵庫の浜学園が今年の10月に合弁会社を設立すると発表した。灘中学校合格者数で全国一の浜学園が、東大合格者数トップの駿台とタッグを組んで首都圏の中学受験に挑むというのだ。
大学受験で知られた塾や予備校が中学受験に乗り出したのは、これが初めてではない。駿台以外の4メガもすでに動き始めている。
東進ハイスクールを経営する株式会社ナガセは、2006年に本部が中野区にある四谷大塚の株式を取得して買収し完全子会社化している。
名古屋に本拠を置く河合塾は、中学受験学習指導に定評がある日能研と共同で株式会社ガウディアを2006年12月に、株式会社日能研東海を2008年1月に設立した。
そして、代々木ゼミナールを運営する学校法人高宮学園グループの株式会社日本入試センターがSAPIX小学部を2010年に、中学部と高校部を2010年に買収している。
気づけば大学受験だけでなく、中学受験でも4メガが争う構図ができあがっている。少子高齢化がすすむ日本で生き残るために、受験産業界は必死で変わろうとしている。
森上教育研究所を主宰する教育評論家の森上展安氏によれば、大学受験対策をメインにしてきた予備校や塾が中学受験へ進出する現在の状況は、予備校が負っていた歴史的使命が終わったために起きている、当然の現象なのだという。
「先進国では通常、大学入学のために浪人はしないものです。ところが日本では戦後、若者の人口が急激に増えたため、受験をむかえたとき多くが入学できず、行き場をなくしてしまった。そういった社会的な問題を解決するために予備校が生まれました。特殊な歴史の遺産といってよい存在です」
ところが現在の20歳前後の人口は、1990年代前半までに大学受験をむかえた第2次ベビーブームのころと比べて半分以下しかない。大学全入時代になったといわれる今、各大学がもっとも気にしているのは、18歳人口がさらに激減する2018年だ。その2018年問題対策として、付属中学の新設や、すでにある私立中学校の買収などで数年後の大学入学者をあらかじめ確保する動きが、数年前から活発化している。
18歳人口が減るということは、当然ながら浪人生も激減する。さらに、東京大学で現役合格者の割合が増えるのにあわせるかのように、大学受験全体における現役志向はますます高まっている。これまで大学受験対策で名をはせてきた大手の予備校が、浪人生中心から現役生へ、さらに幅広い年齢層へと業務の対象を増やしていくのは当然のなりゆきだ。
「1970年頃から予備校は急激に大きくなり全国展開しました。そして、とても儲かったんです。そのときのお金を今、買収費用などに使っている。大学受験の現役市場を囲い込んでいくことと、受験といえば中学受験が半分以上を占める世界ですから、中学受験対策の分野を取り込んでいく動きは、これからも変わらないでしょう。」(森上さん)
予備校によって方針がまちまちなので一概には言えないというが、今後は蓄積したノウハウを学校受験だけでなく、語学教室やコーチングなど、幅広い層へ向けて提供していく可能性もあるという。
日本で生まれ育った場合、人は様々な習い事や塾のお世話になる。たとえば、ピアノやダンス、書道などのおけいこごとに始まり、中学受験、高校受験、大学受験に留学・就職対策セミナー、社会人になってからの英語教室に資格取得、リタイア後の趣味の絵画教室など、例を考えればきりがない。
それほど遠くない将来には、これらすべてが、気づけばひとつの予備校グループのもとで習い続けていた、という人生がやってくるかもしれない。