中国の最新鋭戦闘機J10による尖閣諸島への領空侵犯、さらには海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦へのレーダー照射。それらは軍事挑発であるとともに、兵器のハイテク化がいかに進んでいるかを見せつけるデモンストレーションでもあった。しかし、そのハイテク化こそ中国のアキレス腱だと軍事ジャーナリストの井上和彦氏は指摘する。
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軍拡の道を突き進む中国の国防費は、毎年2ケタの伸び率で増え続けており、2012年の国防費約6500億元(約9兆7000億円)は、5年前の約1.6倍。過去10年間で約4倍に増えている。世界でこれほど極端に国防費を増額している国は他にない。
しかも公表額には兵器購入費や新兵器開発費といった主要な支出区分が含まれておらず、実際の国防費は公表額の2~3倍になると見られている。
中国人民解放軍の総兵力は229万人。第2位のアメリカ(157万人)、第3位のインド(133万人)を抑えて世界一だ。中でも陸軍は160万人と、米軍の陸上戦力(64万人)の3倍近い。
海軍の保有する艦艇数は1088隻。アメリカ海軍(1075隻)を抜いて世界第1位となっている。 航空戦力はどうか。中国空海軍の作戦機は2074機で、アメリカの3497機に次いで第2位。
そしてなにより中国は、アメリカ、ロシアに次ぐ核兵器保有大国だ。
中国の軍事費増大の背景には、軍事力の近代化がある。昨今中国は、ハイテク戦車やステルス戦闘機、最新鋭戦略原子力潜水艦など、次々と新兵器を繰り出している。ただし、それはまだごく一部のことで、中国人民解放軍の保有兵器は、旧式兵器が大半を占める。だから自衛隊やNATO軍の兵器に近付けるよう、急ピッチで近代化を進めている。
巨大な陸軍をすべて近代化するためには莫大な国防費を投じる必要があり、財政上大きな負担となる。陸軍は約8200両の戦車を保有しているが、その大半は著しく旧式であるため、欧州のハイテク技術を取り入れて99式戦車を開発するなど近代化に努めている。 だが専門家はこう見る。
「中国の最新鋭戦車には、それらしい装備が搭載されていますが、たいしたことはないでしょう。基本的に戦車は“自動車”であり、自動車製造技術が確立した国でないとまともなものは作れません」
他の兵器についてもおよそ同様であり、粗悪品に大枚をはたいている。海軍も急速に近代化を進めている。中には海上自衛隊の護衛艦に匹敵するハイテク艦も登場した。
前述の艦艇数も2008年から2012年の5年間で228隻も増えている。それらにも莫大なコストがかかるが、一番の金食い虫は航空母艦だろう。旧ソ連空母「ワリャーグ」を改装した「遼寧」の他に2隻の空母を建造中で、それらが就役すると軍事費はさらに跳ね上がる。
なぜなら、航空母艦を運用するには、イージス艦のような防空艦や高度な対潜能力を持つ駆逐艦などを数隻建造して、空母打撃群という戦闘パッケージを作らねばならないからだ。予算は少なく見積もっても1兆円規模となろう。しかも中国は、少なくとも2個群の空母打撃群を持とうとしており、その維持管理費は半端ではない。
※SAPIO2013年4月号