日本ではスマホに入れて使うメッセージ交換アプリ「LINE」が浸透、若者だけに留まらぬコミュニケーションツールとして定着している。
韓国企業の日本法人、NHNジャパンが提供する「LINE」は、メール送信料がかからずに短文メッセージが送れるほか、音声通話もできる便利さから爆発的に利用者を増やし、今年1月に加入者数は1億人を突破。日本のほかアジア諸国で利用者を広げていた。
だが、中国では事情が異なるようだ。日本に留学経験のある30代中国人女性がいう。
「日本の友達とは『LINE』で連絡を取り合っていますが、こちらでは少数派。中国企業が提供しているLINEに似たアプリ『微信(ウェイシン)we chat』を使っている人が多い」
中国のテンセント社が運営する「微信 we chat」の利用者は、なんと3億人を超えるという。こちらもアジアを中心に広まっているが、携帯電話番号で友人を探せたり、メッセージが送れる基本機能はLINEとそっくり。だが、それを上回る“機能”が実装されているのが人気の秘密だと前出の中国人女性は強調する。
「相手のスマホに、トランシーバーのように音声メッセージが送れるんです。相手が電話に出られないときでも、吹き込んで送っておけば聞いてもらえる。小さな画面にタイピングする手間が省けるのは意外なほど快適です」
LINEを超えた機能はそれだけではない。別の20代中国人男性は、「コレはもはや出会い系アプリです」と興奮ぎみに語る。
「『Look Around』という機能が最高なんです。GPSの位置情報をもとに、現在地から近い利用者を割り出して一覧で表示してくれる。そこに表示された女性に片っ端からメッセージを送るんです。多くは無視されますが、たまに返事をしてくれる子がいる。実際に声をかけるより何倍も効率的にナンパできるんです」
いかにも個人情報に対する感覚がユルい、中国ならではの機能といえるかもしれない。前出の中国人男性の交際する女性も、最初は「微信」がきっかけだったという。
そんなサービスが誰でも利用できる「微信」。無料ということもあり、磐石な基礎を築きつつあるわけだが、それが逆に”弱点”にもなっている。
パケット通信量が飛躍的に増えることから携帯電話の回線使用量を圧迫しているのだ。3月半ばには、現地ネットには「携帯電話会社から働きかけられたため有料化される」との噂が流れた。
『中国人の取扱説明書』(日本文芸社)などの著書があるジャーナリストの中田秀太郎氏は、こう分析する。
「運営会社は当面の有料化を否定していますが、いずれそうなるのでは、という危機感が現地ネット上では広がっています。日本の携帯電話会社も音声通話やメール利用収入が減っているようですが、やはり中国は利用者の数も多いだけに、有料のビジネスモデルで収益拡大を狙っているのは確かでしょう」
中国人利用者は、もちろん有料化に反対だ。「無料だから使っているだけ。もし有料化されたらまた別の無料アプリを使うわ」、「おれはWifiで使っているのになぜお金を払う必要があるのか」などという声が多数を占めている。
いまのところ収益モデルを持たず、利用者数に見合った収益を得られていないともいわれる「微信」。有料化でユーザー離れが進めば、ゲームやスタンプ販売などの収入源を固めた「LINE」が入り込む余地も十分にある。果たして中国人の選択は?