年間600万台といわれる炊飯器市場の中で、内鍋に土鍋を採用した高級モデルをはじめ、市場の25%近くを占めるのがタイガー魔法瓶。だが、実売価格8000円以上の「3合炊き炊飯器」のジャンルだけは苦戦を強いられていた。商品企画を担当する同社ソリューショングループ商品企画チームマネージャー代理の金丸等氏が、原因をこう分析する。
「3合炊き市場はさほど大きな市場ではありません。そのためほかのジャンルと同じようなラインアップを揃えた結果、差別化を失い、目立たなくなってしまったことが敗因でした」
プロジェクトチームから提案されたのが内鍋の上に、蒸しカゴを乗せて同時に調理する炊飯器。東南アジアや中国などで一般的なスタイルのものだった。 しかし、炊飯時におかずから汁が出て、ご飯に味や匂いが付いてしまうのが欠点だった。
そこで蒸しカゴ底の穴をふさぎ、汁や匂いがしみ出さない構造にすれば良いのではないか、と考えた。
「温めるだけではなく、蒸気の力で、生の肉や魚などを調理できるようにすれば、時間がない若いOLに受け入れられるとにらみました」
個性的でニッチな製品。ユニークな炊飯器は『tacook』と名付けられ、2012年2月に発売された。ターゲットは一人暮らしのOL。若者層に料理の楽しさを伝えようとチャーハンやリゾット、ロコモコなど彼らに人気の高い調理のレシピを載せた調理ブックも独自に編集した。
おかずと同時調理の場合、炊飯できるご飯は1合。だが一人住まいのOLには十分だと判断された。
「2か月で8000台売れてくれればいい」
と会社は控え目だったが、すぐさま嬉しい悲鳴があがった。期待値の4倍、2か月で3万2000台も売れるヒット商品となったのだ。
※週刊ポスト2013年3月22日号