不安視されたWBCもフタを開けてみれば盛り上がった。1試合6本塁打というWBCタイ記録を打ち立てたオランダ戦。試合は派手だったものの、本来チーム唯一の長距離砲といわれる中田翔(23=日本ハム)だけが蚊帳の外だった。
6試合で18打数6安打の.333は立派。だが、本人の表情がさっぱり晴れないのには理由があった。
中田には、立浪和義打撃コーチが宮崎合宿からつきっきりで指導している。これまで中田がやってきた、左足を高く上げる打法を、すり足に変えるフォーム改造に取り組んできたのだ。
代表入りする選手に対して、フォームの改造を強いるのは異例。かつて第1回WBCの際に、大島康徳コーチがイチローを指導して顰蹙を買ったこともある。
「コーチの立場からすれば、パンチ力のある足上げ打法で出るか出ないか分からない一発よりも、安定したすり足フォームで出るヒットに期待するのは当然。しかし、自分がミート中心の安打製造機だったからといって、大砲を期待されている中田と組むのは水と油ではないか」(球界関係者)
こんな声も聞こえてくるが、それでもコーチの指示に従ってきたのは、中田が何としても代表チームに残りたかったからだろう。
立浪コーチとしては、中田を送り出した日本ハム・栗山英樹監督から「代表チームにいる間に、たくさん引き出しを作ってやってください」と頼まれた“お墨付き”があるとはいえ、当の中田の胸の内は穏やかではない。同じ球団の先輩の稲葉篤紀には、「長打が出る気がしないし、このままでは自分らしさがなくなってしまう」と話しているという。
今のところ日本ハム球団から特に不満の声は聞こえてこないが、入団から中田を見守ってきた福良淳一コーチは今季からオリックスへ移ってしまった。中田がWBCへの出場から、とんだ厄介を持ち帰らないかどうか、少し心配である。
※週刊ポスト2013年3月29日号