「とにかく出場機会に恵まれない。壮行試合では野手陣で唯一打席が与えられなかったし、本戦が始まってもほとんど出番がない。本人は代表に選ばれたとき、“自分の役割はわかっている”と語っていたが、ここまで出られないとは思っていなかったのではないか」
スポーツ紙記者がこう語るのは、ソフトバンクの主力選手・本多雄一(28)のことである。
6試合をこなした東京ラウンド終了時点での本多の出場実績は、代打で2打席(うち1四球)、守備1回、代走1回。井端弘和、鳥谷敬、坂本勇人、そして松井稼頭央に、一塁には稲葉篤紀、中田翔がいるというダブついた内野陣の煽りを一手に受けている形だ。今のところ一番スポットライトを浴びた瞬間が、王貞治・ソフトバンク球団会長による始球式で、捕手役を務めた時というのだから笑えない。
「2009年大会の、当時同じくソフトバンクだった川崎宗則と同じ状況です。川崎も出場機会に恵まれず、イチローのキャッチボール相手やベンチでの盛り上げ役に徹していた。本多も同様に同じ高校出身でソフトバンクのチームメートだった杉内俊哉の話し相手になったり、ベンチでは声を張り上げていますが……」(同前)
ここまで使われないと、問われるのはその存在意義であるが……。スポーツライターの永谷脩氏はこう分析する。
「俊足・堅守の選手ですから、当然、代走・守備固めとしての役割がメインになる。ただ彼は頭のいい選手で、場面ごとに自分に求められていることをしっかり理解し、打席で実行する能力がある。例えばようやく打席が回ってきた3月6日のキューバ戦、9回表1死一、二塁の場面でセーフティバントを試みた。あれはこれまでの日本の攻撃になかった“仕掛け”です。結果的に相手の四球を誘い、チャンスが広がりました」
普段はムードメーカー、いざという時には器用な「最終兵器」。目立たないが、すでに代表で存在感を示しているのかもしれない。
※週刊ポスト2013年3月29日号