中国の経済発展は1億2000万人の富裕層を生み出す一方で、一流大学を卒業しても満足な仕事に就けない「高学歴ワーキングプア」も量産している。その実態を中国鑑測家、北村豊氏が解説する。
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近年、中国では臨時雇いや失業・半失業状態にある大学卒のワーキングプアが社会問題化している。彼らは「アリ族」と呼ばれ、月収は出稼ぎ労働者並みの1000~2000元(約1万5000~3万円)程度。大都市郊外、農村部との結合地域にある城中村に集まり、安普請のアパート一室を共同で借りるなどして集団生活している者が多い。暮らしぶりがアリの生態と似ていることから名付けられた。
彼らの生活実態を調査した研究者によると、2009年時点でアリ族は全国の大中都市に分布し、北京だけで10万人以上、全国では100万人以上いるとされた。さらに1年後の調査では、アリ族全体に占める大卒者の比率が3割から5割まで増加。中でも、「211重点大学」と呼ばれる一流大学出身者の割合は3割(前年の調査では1割)に及んだ。
全国で数百万人に増えたと推定されるアリ族の生活実態はますます困窮している。当局による城中村(注*)の「改造(都市開発)」が進み、アリ族が住居とする安アパートが取り壊され、住処を失った彼らは郊外へと移転を余儀なくされているのだ。移転先の城中村でも「改造」が始まると、次の住処を求めてまた移動が繰り返される。
その結果、勤務先はますます遠くなり、通勤に往復4時間以上かかることが珍しくない。しかも、引っ越すたびに家賃は上昇傾向にあり、低収入のまま毎月の支出は増え続けている。
北京のIT関連会社で働き、市の中心部から北に約30キロメートルの沙河という街に住む典型的なアリ族男性の月収は1500元(約2万2000円)。家賃(300元)と光熱費やネット代などで毎月700元の支出があるという。冬期には暖房費がプラス200元ほどかかり、食費をギリギリまで切り詰めている。
住環境も劣悪だ。トイレや水道などが共同なのはもちろん、ワンルームの一室に2段ベッドを並べて6人が寝起きすることも当たり前のようにある。北京にあるアパートは一室わずか2平米。カプセルホテルのようなスペースで数十人の若者たちが生活している。
【注*】都市化に立ち後れ、生活水準が低いままになっている「都市の中の村」
※SAPIO2013年4月号