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中国嫁日記作者 抗日ドラマがなくならない理由を冷静に分析

井上純一氏のサインは手製の月さんハンコとイラスト付き

 大人気ブログ『中国嫁日記』の作者、漫画家でイラストレーターの井上純一氏は、昨年春から経営する玩具会社の製造拠点、中国の広東省東莞市で暮らしている。2月末に刊行し、すでに3刷15万部となった『月とにほんご中国嫁日本語学校日記』(アスキー・メディアワークス)の原稿は、日中を行き来しながら書き上げた。反日暴動に揺れた昨年を振り返りながら、現代中国庶民のリアルな姿を井上氏が語った。

 * * *
――広東省の東莞市へ移住されて、もうすぐ1 年ですね。ものすごい勢いで開発が進んでいる地区のようですが、まだ不便なところはあるのでしょうか?

井上:最大の問題はネットがのろいこと。光回線で4 メガですよ! その上に「金盾」(※中国政府によるネット検閲システム。多くのSNS やブログに接続できない)が存在します。最近リニューアルされて、勝手に通信の逆探知をしてルートを自動的に塞ぐシステムがつき、いっそう面倒くさくなりました。

 他はほとんど問題がないですね。住んでいるところの近くにはマックカフェがあるマクドナルド、ケンタッキー、ピザハットに日本食屋もある。日本のお菓子を売っている店もあります。ただ、そこはブルボン製品がなかなか無い。最大の難点です。

――昨年は尖閣諸島の領有を巡って、中国では大規模な反日暴動が起きました。移住されたばかりで驚かれたのではないでしょうか?

井上:いま住んでいる南部の工業地帯の人たちは、騒いでも一円にもならんというのが本音です。火をつけたりして暴れたのは、北に集中しているでしょう。南の連中は、自分の収入に響くと分かっているから暴れない。暴動があった都市部でも、地元の人は暴れてないですよ。未来がないと思っている田舎者が鬱憤晴らしに暴れた。

――中国のなかでも南と北はずいぶん違うんですね。

井上:妻は北の出身なのですが、北の人間は、南のことが嫌いで必ず悪口を言う。「南の人は、泥棒と嘘つきばかりだ」という言い方があるんです。関西人が東京のことを悪く言う拡大版みたいなものです。

 中国の南と北は、本来は言葉も違います。でも、中国政府は言葉で国が分裂すると分かっているので、普通語として北京語をたくさん教えている。おかげで識字率が上がった。文字が読めるのは重要なこと。人間の脳は、計画や仕事の組み立てを言葉じゃなく文字で認識しているから、工員の識字率が高くなったおかげで中国は生産性を上げたんです。

――中国の教育といえば、反日も教えられているのが有名ですね。

井上:中国政府は、国が分裂しないように北京語を教え、同時に日本を敵だと設定する愛国教育をして国内を固めました。でもそれが今、裏目に出ている。国がすすめている部分もありますが、反日というコンテンツそのものが面白いので止まらなくなっている。

“抗日ドラマ”というジャンルがあります。共産党は抗日ドラマをこれ以上作らせないようにしているのだけれど、視聴率がいいから100 チャンネル以上ある民放のテレビ局が勝手に作っちゃう。そして実際に見てみると、実に面白いんです。

 第二次世界大戦中の日本が必ず悪として描かれるのですが、子ども向けの戦隊モノや時代劇の水戸黄門みたいに、定番の悪役として登場するんです。制作する立場からこのコンテンツをみると、決まった設定があるから簡単にシナリオを組め、高い視聴率もとれる。さらに、本来だったら許されない暴力描写を抗日ドラマだけは、やり放題なんです。反日は娯楽として優れているから広まるし、止められないという事情がある。

――海外のドラマは、まだそれほど中国では見られていないのでしょうか?

井上:韓流ドラマは人気がありますよ。そのおかげか、韓国人のことを中国人は意外に好きなんです。私自身、中国で外国人だと分かると、必ず「韓国人ですか?」と聞かれます。日本人かとは言われない。韓国人であって欲しいと思うからそう聞くんです。

――実際に韓国人は中国で多く活躍しているのでしょうか?

井上:工場をやっている人が多いですね。ヒュンダイなど大手の仕事もあります。工員から言われたのですが「韓国人は偉そう。日本人は卑屈。インド人は悪人」なのだそうですよ(笑)。韓国人は向こうだと、本当に胸を張って歩いていて、素直に感心します。そして、インド人は本当に抜け目がないらしく印象が悪いんですよ。

――中国の人たちが親日になる可能性はあるのでしょうか?

井上:抗日ドラマより面白い日本のドラマやアニメを作り続け、向こうで大ヒットすれば世界が変わると思います。韓流ドラマで韓国が成功していますから。ただ、今の日本のドラマは難しくて、色んなことが面倒くさくて分かりづらいらしいです。

――日本のアニメーションは中国ではどのように受け止められているのでしょうか?

井上:中国共産党は、自国のアニメーションを保護育成するために日本製アニメの輸入規制をしています。放送されている中国アニメを見ると、レベルがものすごく低いです。でも、中国でもちょっとマニアになってくると、満足できずに日本アニメをネットで勝手に見るようになります。

 裕福になると必ずオタクが生まれる。アメリカでアニメ雑誌を作っているアフリカ系の知人が「経済状況が悪いからアフリカ系にオタクが少ない」と二十年前に話していました。今は少し変わっていると思いますが、お金があればオタクが生まれる状況は同じ。だから、中国も裕福になって少しずつ状況は変わると思います。不思議なドラえもんやガンダムもどきには、満足できなくなる日が来ます。

――最近、地方が外国映画やドラマを誘致する動きがあります。こういったことも中国の反日行動を和らげる効果を持ちそうでしょうか?

井上:北海道で撮影され大ヒットした映画『非誠勿擾』(邦題『狙った恋の落とし方。』)の監督、馮小剛は喜劇が得意な中国の国民的監督です。この作品をきっかけに中国人にとって北海道はあこがれの地になりました。妻も北海道が大好きで、行きたがりました。馮小剛監督が表だってそう発言したことはありませんが、ずいぶんと日本を好意的に描く人です。そう考えると、撮影の誘致も意味があると思います。

■井上純一(いのうえ じゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。40歳で結婚した20代の中国人妻・月(ゆえ)の日常を描いたブログ『中国嫁日記』が1日に7万アクセスを数える人気を集め、2011年に単行本化。『中国嫁日記』1巻・2巻(エンターブレイン)は累計50万部を超えた。昨年4月から広東省東莞市へ移り住んでいる。最新刊は『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/アスキー・メディアワークス)。

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