さる3月8日、安倍晋三首相夫人の昭恵さんは在日本中国大使館の招待で女性議員や議員夫人らとともに同大使館主催の「国際婦人デー」記念パーティに出席し、大いに食べて、飲み、楽しんだ。本誌は前号で安倍晋三・首相の訪米に同行しなかった昭恵夫人が、その間に中国大使館で開かれた昼食会に出席していたことを報じた。今回は、それに続く大使館訪問であり、中国側がそれほど“アッキー工作”に力を入れていることがうかがえる。
実は、昭恵夫人の“親中”ぶりは今に始まったことではない。全く報じられていないが、2010年には友人である二胡奏者のウー・ルーチン夫妻とともに南京を訪問し、驚くことにあの「南京大虐殺記念館」にも足を運んでいたのである。
その時の経緯を、昭恵夫人は自らのブログに次のように書いている。
〈午後からは南京記念館に行きました。2度とこのようなことが繰り返されることがないように平和を目的としてつくりました……という説明。私はかなり違和感を覚えたので、この記念館の感想は省きます〉
南京大虐殺記念館といえば、日本軍が行なったという残虐行為を国内外に宣伝するためのものだ。しかし、展示品はその歴史的事実の歪曲がはなはだしいと日本の歴史研究家から指摘されている。昭恵夫人が〈かなり違和感を覚えた〉というのも、それを感じ取ったからであろう。
中国側は対日外交でも記念館を踏み絵に利用し、親中政治家を視察させることで、「中国側の歴史認識を認めた」と宣伝してきた。
今年1月に鳩山由紀夫・元首相夫妻が同記念館を訪問した際には、日本国内から厳しい批判の声が上がった。一方、中国側は鳩山氏の謝罪と「多くの民間人、捕虜を日本兵が殺した」との発言を大きく報じ、歴史問題で日本を黙らせるための宣伝に大いに利用した。
かように日本の要人の訪問には、そうした外交的リスクが伴う。ましてや対中強硬派で知られる安倍氏の夫人となればなおさらだろう。
これが昭恵夫人の「日中友好のために頑張る」活動なのだろうか。昭恵夫人に取材を申し入れると、何と「自ら説明したい」と本誌記者に電話がかかってきた。
「南京記念館は、私的な中国訪問の際に現地の方にアテンドされて行きました。行くつもりはなかったのですが、訪問先に組み込まれてしまっていたので、拒む理由もなく、参考のために見ておこうということにしたんです。もちろん納得できない展示はありましたが、その場で反論してもしょうがないので、淡々と見学しました」
──中国大使館のパーティではどんな話を?
「大使夫人は日本語が流暢で、とても魅力的な人柄なんです。政治の話とは無関係に、夫人同士はいつも仲良くしていきたいという話をしました。私は人と人とが仲良くなっていくことが平和に繋がっていくという、シンプルな考えなんですよ」
──昭恵さんの個人的交流を、総理が注意するようなことはあるのですか?
「そんなことありませんよ(笑い)。主人は私の判断を信頼してくれてますから。やめなさいといわれたことは一度もないですし、やりたいようにやらせてもらってますよ(笑い)。あら、主人が帰ってきたので、このへんですみません。うふふふふ」
そう天真爛漫に“夫人外交”を語ってくれた昭恵夫人であるが、元駐レバノン大使で作家の天木直人氏は、こう心配を口にする。
「昭恵夫人が、安倍首相と相談をした上で、中国側と交流し、それを安倍首相がうまく利用するというのなら、戦略的外交といえます。しかし、昭恵夫人のスタンドプレーだとすれば中国側に利用される可能性もあります。昭恵さんを親中派に仕立てることができるとも考えているでしょう」
安倍首相はアッキーの“ファーストレディ外交”をどう使いこなすつもりだろうか。
※週刊ポスト2013年3月29日号