北朝鮮が長距離ミサイルに核実験と軍事挑発を続けているのに、対峙する韓国軍兵士の士気は低下する一方だ。軍事境界線の最前線を訪れた産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏がリポートする。
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先ごろ北朝鮮との南北軍事境界線の中部前線に行ってきた。朝鮮戦争(1950~53年)当時の最激戦地で「鉄の三角地帯」と呼ばれた韓国側の要衝・鉄原。ソウルの北東70kmにあって、非武装地帯の鉄条網越しにはるか北朝鮮の監視所があり、北朝鮮兵の動きも見える。
韓国軍のパトロール部隊の案内で鉄条網沿いに塹壕を歩いた。案内の小隊長が、鉄条網に兵士を激励するリボンを結び付けたいのでリボンに何か書いてくれという。「自由統一!日米韓団結!」と書いて結び付けた。
小隊長としばし立ち話になった際、気になっていたことを聞いてみた。「前線の部隊兵舎で若い兵士たちが男性化粧品に夢中と聞いたが本当か?」と。小隊長は「兵舎(内務班という)のロッカー(私物棚)は化粧品で一杯ですよ」と苦笑いしていた。
2010年、ソウル北西の海の境界線付近で夜、韓国哨戒艦「天安」が北朝鮮の魚雷で撃沈された時、乗組員が携帯電話で外部世界と通話していたことが分かった。艦長も携帯で事態を上層部に連絡していた。
軍当局の記者会見の際、質問してみた。「韓国海軍は作戦行動中に乗組員の自由な携帯電話使用を認めているのか? そもそも携帯電話の艦内持ち込みは自由なのか?」と。その答えは「幹部以外は認められていないが、艦内生活は不自由で不満が多いので……」という答えだった。つまり黙認しているというわけだ。
これには驚いた。最前線での作戦勤務中に陸の家族と私的会話が可能とは。これでは簡単な盗聴システムで艦の動きが北に筒抜けではないか。
昨年夏、軍で大問題になったのがスマートフォン事件。若い兵士たちが禁止されているのにスマホを部隊に持ち込み、訓練状況や兵器などの情報をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で外部世界に流していた。スパイではない。退屈しのぎで面白半分にやっていたのだ。
ある部隊では兵士の3分の1が秘かにスマホを楽しんでいたという。IT王国の韓国は今やスマホ中毒社会だ。若い兵士はスマホ無しには軍隊生活もできないのだ。
※SAPIO2013年4月号