近年、江戸時代中期の京都画壇の画家たちが大人気だ。円山応挙、曽我蕭白、長沢芦雪……なかでも「奇想の絵師」として知られる伊藤若冲はその代表格といえる。その若冲の世界一のコレクターであるプライス夫妻の珠玉のコレクション(*注)が、現在、東日本大震災復興を祈って、東北3県で公開されている。
今回は、『日本美術全集』(全20巻、小学館)の第2回配本『若冲・応挙、みやこの奇想』発売記念として、明治学院大学教授で「日本美術応援団」団長の山下裕二さんと、『新日曜美術館』(NHK)でサブ司会を務めていた女優の緒川たまきさんが、宮城県・仙台市博物館へと向かった。ガラス越しではなくナマで配された若冲の大作『鳥獣花木図屏風』を前に、2人が語り合った──。
緒川たまき(以下、緒川):日本画とは思えない色合いというか……これは本当に江戸時代の絵画ですか? いま見てもすごくモダンですよね。
山下裕二(以下、山下):200年前以上に描かれたとは信じられないでしょう? デジタルなアナログというかアナログなデジタルというか。一つ一つの桝目を色で埋めるというとてつもない作業のもと完成した作品です。
緒川:まるでタイル画のようですよね。この時代にタイルはあったのでしょうか?
山下:タイルはなかったし、この描き方はまったく前例がない。実は、プライスさんはカリフォルニアのご自宅の浴室壁にこの作品をタイルで再現しているんです。僕も入らせてもらったことがあります(笑い)。
緒川:ああ、素敵! リラックスできそう。
山下:それから、この作品は仏教的な意味もあるんです。若冲にとってのまだ見ぬ天竺、仏の国の動植物を描いている。約8万6000個もの桝目を一つ一つ絵具で埋めていく作業は、写経と同じ、つまり若冲にとっての修行の意味合いもあったと思います。
【*注】プライスコレクション/ジョー・プライス氏と悦子夫人の江戸絵画コレクション。ジョー氏は世界最大の江戸絵画コレクターとして知られる。東日本大震災復興支援特別展『若冲が来てくれました―プライスコレクション 江戸絵画の美と生命―』仙台市博物館(~5月6日)、岩手県立美術館(5月18日~7月15日)、福島県立美術館(7月27日~9月23日)開催予定。
撮影■太田真三
※週刊ポスト2013年3月29日号