先日、カナダで行われたフィギュアスケートの世界選手権。男女ともに、来年のソチ五輪の最大出場枠「3」を獲得した。とはいえ、結果をみると、表彰台に上がったのは3位に入った浅田真央選手のみ。男子は4大会ぶりに表彰台を逃した。昨年12月に行われたグランプリファイナルでは高橋大輔選手が優勝、羽生結弦選手が2位に入り、女子とともに“世界最強”と国内では盛り上がりを見せていた男子フィギュアだが、一転、薄氷の3枠。この状況について、あるスケート関係者はこう語る。
「世界選手権にピークをもって来られなかったということでしょう。羽生選手、高橋選手ともに、全日本選手権の頃がピークでした」
すでに報道されているように、羽生選手は2月に行われた四大陸選手権後に体調を崩し、さらに怪我をし、満身創痍の状態で世界選手権に臨んだという。また、高橋選手は12月の全日本選手権後に、ショートプログラム(SP)を変更。異例ともいえるシーズン途中の変更を試みたが、滑り込みが足りなかったことや、ジャンプの不調が響いた。プレオリンピックシーズンだからこそできたトライ&エラーではあるが、そうした個別事情とは別に、試合の多さを懸念する声もある。フィギュアスケートに詳しいスポーツジャーナリストはこう語る。
「日本人選手は忙しすぎるんです。たとえば、世界選手権の約1カ月前に行われる四大陸選手権は、かつては世界選手権に出場できない選手に機会を与える側面を持っていました。それが数年前から、世界選手権に出場する選手が、そのまま四大陸にも選ばれるようになった。選考する日本スケート連盟にしてみれば、国際スケート連盟(ISU)が一流選手を派遣するよう要請していることもあるのでしょうが、それだけではなく、テレビの視聴率など、興行面への配慮もあるのではないでしょうか」
フィギュアスケートはいま、テレビ局にとって、ドル箱となっている。四大陸選手権の平均視聴率(関東地方)は13.6%、最高視聴率は浅田真央選手が叩き出した29.5%。世界選手権は、女子フリーの平均視聴率が17.0%、男子フリーは13.1%だった。世界選手権の放映権を持つフジテレビは、主な競技が日本時間の日中(早朝~昼ごろ)という視聴可能な時間帯だったにもかかわらず生放送をせず、ゴールデンタイムに録画を放送している。
「空前のフィギュア人気で、アイスショーも増えています。選手たちはグランプリシリーズ(10~12月)を戦い、上位選手はGPファイナル(12月)に出場し、全日本(12月)、四大陸(2月)、そして世界選手権(3月)。その間、メディアの取材を受けたりもする。トップ選手になるほど忙しい。一番のピークを合わせるべき試合まで、体力・気力を維持するのは、並大抵のことではありません。さらに2009年からは国別対抗戦が始まり、4月まで試合が続くようになりました。
試合を重ねることで、調子を上げていく選手もいます。試合で色々試して、ジャッジの反応を見るという活用方法もある。ですが、休養や雌伏の時間が必要な場合もある。選手それぞれに合った調整ができているのか、心配になることがあります」(前出のスポーツジャーナリスト)
男子で3回目の世界王者に輝いたパトリック・チャンは四大陸選手権を欠場していたし、女子では、優勝したキム・ヨナと2位のカロリーナ・コストナーは、グランプリシリーズに参戦していなかった。たっぷりの時間を使って、世界選手権に照準を合わせてきたわけだ。いずれにしろ勝負はソチ五輪。選手たちには、オリンピックには万全の状態で臨んでほしいし、ファンは長い目で見守りたい。