外国人から見た日本の特徴として必ず挙げられるのが、「石を投げれば当たる」ほど点在する自動販売機の数。飲料総研の調べによると、缶コーヒーやペットボトルのお茶など清涼飲料を扱っている自販機は、じつに245万台(2011年末)にのぼる。
気になるメーカー別シェアを見てみると、1位=コカ・コーラ(84万台)、2位=サントリー(48万1000台)、3位=ダイドードリンコ(26万8000台)、4位=アサヒ飲料&カルピス(25万9000台)、5位=キリンビバレッジ(20万台)の順。大手ナショナルブランドの勢力図がそのまま自販機の数にも表れている印象だ。
しかし、近年は設置台数が頭打ちのうえに、コンビニなどの台頭により自販機の販売比率は右肩下がりだという。飲料総研の宮下和浩氏が解説する。
「自販機での販売比率は1995年の48%から下がり続け、2011年は33%まで落ち込んでいます。1996年から小売店でも350ミリリットル入りの小型ペットボトルが売られるようになり、消費者は自販機からコンビニへという流れになりました」
苦戦を強いられる自販機市場だが、飲料メーカーとしては安定した収益源となっているため、たとえ値下げしてでも他社との“陣取り合戦”を続けるほか策はない。
「販売比率が落ちたからといって、相変わらず各社とも自販機で利益の約6割を稼いでいます。どんなに苦しくても自販機なしでは経営が成り立たないのです。そのため、他社ブランドの自販機が100円均一などと価格を下げた地域は追随せざるを得ず、激しい値下げ競争で収益圧迫の悪循環も招いています」(前出・宮下氏)
来年には消費税増税も控えている。アサヒ飲料が自販機の価格を立地別に変更できるシステムを導入するなど各社とも対応を検討しているが、自販機飲料の価格を値上げするかどうかは明言を避けている。
そんな逆風吹き荒れる自販機ビジネスにも活路はある。自販機そのものにバリエーションをつけて付加価値を高めようという戦略だ。首位のコカ・コーラは東日本大震災を受けて、日中の消費電力を95%削減できる「ピークシフト自販機」を導入し、設置する法人や個人オーナーへの省エネ効果をアピール。また、消費者には「Edy」や「Suica」といった電子マネーやスマホ対応型自販機で利便性を高めている。
また、各社の飲料を取り扱うJR東日本の駅構内には、おサイフケータイに対応した大きなデジタル画面表示のタッチパネル型自販機が続々と登場している。
そして、ルーレットによる当たり付き機能や、自販機が勝手に喋り出すユニークな仕掛けで消費者の興味を引こうと試行錯誤しているのがダイドードリンコだ。
「自販機イコールお店。いかに消費者とコミュニケーションが取れるかを考え、30年前から購入時にドキドキするルーレット機能のほか、購入時の挨拶や地方の方言で親しみを持ってもらえるような『おしゃべり自販機』を設置しています」(ダイドードリンコ経営企画部)
ただいま、同社の「おしゃべり自販機」は日本語や英語、関西弁などに加え、昨年から被災地を勇気づけようと東北弁も追加。11方言の自販機が全国津々浦々で購入者に話しかける。
盛岡では、「今日もお目にかがれで うれしがんす(今日もお会いできてうれしいです)」、仙台では「おづりとってかんよ(お釣りをお忘れなく)」、福島では「いつも かってくっちぇ どうもない(いつも買ってくれてありがとう)」……。自動音声とはいえ、購入した飲料とともに心まで潤してくれる。
各社の差別化が進む自販機ビジネス。設置台数の身近さよりも、どこまで消費者の購買意欲を誘う身近な存在になれるかが、今後の復権を占うカギになろう。