何だかんだ盛り上がったWBC。決勝ラウンド=アメリカ進出の立役者となった井端弘和(37=中日)は元々守備に定評はあったが、打撃技術は2004年、ある人物との出会いで完成を見る。三冠王を3度獲得した落合博満・前中日監督だ。
「キャンプ中などは、広角打法の名人である落合監督の指導を直接受けていました。落合監督も選球眼がよくて頭もいい井端を気に入り、追い込まれてからの打撃術をも叩き込んだ。
そのおかげで、井端が今、カウント0-2や1-2から空振りすることはほとんどない。昨年は規定打席到達者の中で、空振り三振が最も少なかった。2ストライクからの、落合流のリストを柔らかく使うバットコントロールには定評があります」(中日球団関係者)
落合は野球センスのいい井端を寵愛した。高代延博コーチのノックを受け続けたこともあって、守備力が向上していた井端は2004年から連続6シーズン、ゴールデングラブ賞に選出されたが、この背景には、落合が「井端をGG賞に選ばないなんて見識を疑う」と、投票権のある記者にアピールした事情もあったという。
井端自身、恩を忘れていない。二度目の優勝を果たした2006年は、春先から夏場にかけて首の痛みに悩まされ、不審に陥った時期がある。当時スポーツ紙に掲載した手記には、こう記していた。
「監督の奥さん(信子夫人)には言葉で表わせないほど感謝しています。僕が悩んでいた時、夜に電話で“監督は骨が折れるまで使い続けるっていってるよ”といってくれた。落合ファミリーには頭が上がらないです」
そして代表では、中日を2008年で辞めていた高代延博コーチと再会。「高代さんのノックを受けていたのは15年前。また鍛えてください」と頭を下げた。これを見ていた代表の後輩たちは、「あの井端さんが頭を下げるほどすごい人なのか」と感じたといい、高代コーチの株を上げることにも繋がった。こうした気遣いをさりげなくやれるのも、井端の良さなのかもしれない。
ちなみに今回の日本代表に井端を導いたのも、高代コーチだといわれている。
「山本浩二監督は高代コーチに全幅の信頼を置いている。その高代さんがいい、いいというものだから、ただでさえ多かった内野を増やしたとされている」(スポーツジャーナリスト)
人とのつながりが用意した井端の檜舞台。前出の中日関係者はこう語る。
「もともとレギュラーを確約されてプロに入ってきた選手ではない。努力し不断のアピールを続けてきたからこそ、今の井端があるんじゃないかな」
いぶし銀にこそサムライの輝きがある。
※週刊ポスト2013年3月29日号