近くて遠い国、日本人にとって最近の中国はまさにそんなイメージだ。だが、中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏の見方は少し異なっている。
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日本の対中国外交は成功している――。
そんなことをいえばほとんどの日本人は首をかしげるに違いない。国内には「弱腰外交」を嘆き「毅然とした外交」を求める声があふれているからだ。だが本当に日本の対中国外交は嘆くべき状況にあるのだろうか。
私は近著『間違いだらけの対中国戦略』(新人物往来社)で、子細に分析した。
まず、日本の対中貿易である。日本は、反日デモが荒れ狂った2012年は例外としても、毎年3兆円前後の黒字を積み上げ、あの抜け目のない中国を完全にお得意さんにしている。
しかも中国経済をけん引する重要なエンジンである輸出では、日本から輸入する基幹部品がなければ造ることができないものが全体の6割を占めている。つまり、中国が輸出で儲けようとすれば、自然に対日貿易赤字が膨らむという構造が日中貿易のなかにビルトインされている。
技術が盗まれると心配する声があるが、技術は上から下に流れるのが自然であり、かつては日本自身もその恩恵に与ってきた。さらに重要なことは日本が技術移転をやらなければ、欧米が喜んでやり、日本に代わって利益を得るだろうということだ。
台頭する中国に日本のポジションを奪われると心配する声も日本には多いが、実際に「中国ブランド」が先進国の人々の生活の中に浸透している事実はない。
このことは中国が依然「大きな下請」であることを意味し、一旦、日本など世界に通用するブランドを多く抱えている国で「もう中国ではない」との空気が広がり始めれば、中国の経済には深刻な打撃を与えかねないという脆弱な構造を抱えていることになる。
ここ数年中国で盛んに言われる「中所得国の罠」とは、まさに中国が「選ばれなくなる日」を心配して使われる言葉だ。
ほんの少し状況を冷静に見るだけで、これまでとまったく違った日中の関係が見えてくるのではないだろうか。イメージで語られるほど日中関係は日本にマイナスとはいえないのだ。
ことは尖閣問題でも同じである。中国が尖閣諸島の領有権を突如として主張し始めたのは行儀の悪い行ないに違いない。ただ国際社会には国内法ほど明確な決まりはなく、警察の役割をする組織もないため、さまざまなところに隙間があるというだけのことだ。それがたとえ微小な隙間であっても、それを見たら割り込もうとするのは国際社会の常識である。
尖閣諸島周辺ではエネルギー埋蔵の可能性が指摘されたのだからなおさらだろう。
日本が考えなければならないのは、中国の相手がもし日本でなかったら、中国は同じような振る舞いをしなかったのかという点だ。
結論をいえば、やはり同じことが起こった可能性が高い。それを日本が少々肩をいからせたところで状況が変わったと考えるのはあまりに楽観的過ぎると言わざるを得ないのだ。
そもそも力で相手を屈服させることの効果、現実性を考えれば、従来、日本がやってきた対中外交以上に理想的な外交は簡単には思いつかないのではないだろうか。
外から見れば弱そうに見えて、いつのまにか世界で最も豊かになっている――。実は、中国が目指す韜晦外交(力をひけらかすことなく静かに大きくなることを目指す外交)を本当に具現化したのは、日本だったのかもしれない。少なくとも、日本がそれほど自虐的に落ち込むほどのことではないのだ。