登山者が峻険なる山々に挑戦するのは自由だが、命を失う危険と隣り合わせであることを、各々が自覚する必要がある。ノンフィクションライターの柳川悠二氏は安易に山登りをする状況に対し、警鐘を鳴らす。
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昨今は「山ガール」ブームによって若い女性が訪れ、最近では「山キッズ」さえ存在する。
ブームだからと気軽に入山し、ちょっと道を外れただけで立ち往生、元の道に戻れなくなってしまう。全国的に遭難事故原因の第1位は「道迷い」だ。
彼らが目指す頂は、得てして比較的難度の低い東京などの里山である。
奥多摩の山々を管轄する東京消防庁奥多摩消防署を訪れようとJR青梅線に乗り込むと、登山ウェアに身を包んだ主婦層が、グループで乗り込んできた。時刻は平日の正午過ぎ。「今から登山?」。そんな疑問がわいた。署長の原口久男は呆れたように苦笑した。
「そうなんです。家事を落ち着かせた主婦が、昼過ぎにやってきて山に登ろうというので、困ってしまいます。計画的に行えば安全なのに、最近は地図やコンパスを持ってこない登山者も多いです」
その背景には携帯電話、とりわけスマートフォンの普及があるだろう。若者の登山者は、地図アプリを眺めながら登山道をたどっていく。GPS機能がついた携帯であれば、通報時に遭難場所が特定できるため、これほど便利な登山具はない。しかしそれも電波が通じていればこその話だ。
車を運転する際、カーナビに頼れば道を覚えられないのと同様、スマホに頼っていれば、道中の道筋を覚えられない。するともし電波が途絶えた時にパニックを起こし、道迷いに陥るのである。
※週刊ポスト2013年3月29日号