登山者が峻険なる山々に挑戦するのは自由だが、命を失う危険と隣り合わせであることを、各々が自覚する必要がある。
今年の冬山シーズンでは、過去最悪ペースで山岳遭難事故が発生している。全国から登山者が集う北アルプス(岐阜、長野)では昨年12月から既に20件以上の山岳遭難が報告され、死者は10人以上を数えた。ノンフィクションライターの柳川悠二氏がリポートする。
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山岳救助に向かうのは、警察官や消防隊員ばかりではない。 天候不良時や人手が足りない時などに、救助隊の要請によって、現場近くの山荘従業員や山岳ガイドが先導隊として救助に向かうこともある。彼らは山岳遭難防止対策協会(遭対協)と呼ばれる民間の組織に属し、長野にはおよそ1000名の隊員がいるといわれる。
北アルプス奥穂高岳と涸沢岳の鞍部「白出のコル」(2996メートル)に建つ穂高岳山荘に勤務する宮田八郎もそのひとりだ。彼は神戸大在学中に山に魅せられ、教師になる夢を捨ててまで穂高にやってきた。1986年のことである。
今年90周年を迎える穂高岳山荘は、毎年4~11月上旬の夏山シーズンだけオープンし、登山者に食事や寝床を提供する。混雑期には1日300人が訪れる。
「昔から、登山道の整備や遭難救助も山小屋の仕事です。携帯電話がなかった時代は、事故が起こったら真っ先に山小屋に駆け込んでいましたから。山小屋には山のエキスパートがいて、地形にも誰より詳しい。有事の時に、いち早く駆けつけることができる」
しかし、山の最前線で登山者を見守るこうした番人たちも、昨今の登山客の山への態度には疑問を呈することも多い。
「スーツ姿で、革靴を履いている登山者を見かけたこともあります。電車通勤の途中に突然、山に登りたくなったのでしょうか(笑い)。
さすがにそれは極端な例ですが、天候不良時に、こちらがいくら制止しても、登頂をしようという方がいます。その時には怒鳴ってしまいますね。『こんな危険な天候でもしあなたが遭難したら、助けに行くのは俺たちなんだ』って」
※週刊ポスト2013年3月29日号