今年の桜はどこで見るか、と思案している人も多いだろう。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏の指摘は、きっと参考になる。
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この週末、一気に花見シーズンに突入。花見といえばソメイヨシノ。葉が出る前に満開になり、見た目がとても華やか。でも、それは「新しい花見の感覚」です。と言われたら、あなたは驚きませんか? そもそも、日本の花見のルーツは別の桜にあった、としたら?
「花と葉が一緒に出るヤマザクラを愛でる感性に、日本人の花見のルーツがあった」
西行の研究者であり『感性の哲学』等の著者、桑子敏雄東工大教授は、花見について取材をしていた私にそう教えてくださいました。
葉と花が一緒に出るという、あいまいさに美を感じとる。あわい色、やわらかな色彩の融合を喜ぶ。境界のあいまいな美を愛でる。それが、日本的な感性というものらしい。
そうした感性にフィットする桜は? ヤマザクラです。つまり、「日本的花見」のルーツは、ヤマザクラの宝庫、奈良県の吉野山にある。
歴史を振り返っても、「吉野山の桜風景」はたびたびゴージャスな屏風絵に描かれてきました。屏風だけでなく、たとえばこんな焼き物にも見られます。重要文化財、野々村仁清の「色絵吉野山図」茶壺には、やわらかな吉野の山の合間に咲き誇るヤマザクラの景色がいきいきと立体的に描き出されています。吉野の桜は、春の代表的な画題。まさしく日本人の美の原点であり、よりどころでした。
ということで、ソメイヨシノもいいけれど、日本人なら一度は見てみたい、吉野山の桜満開の風景。
もう一つ、見ておきたい個性的な桜といえば……400年以上前、豊臣秀吉が開いた宴『醍醐の花見』の現場ではないでしょうか。
京都の中心から電車で南へ20分ほど。山科にある醍醐寺の境内で、吹雪のように花びら散らす巨大なしだれ桜。秀吉が鑑賞した桜の子孫です。しだれ桜がクローンとなって現代に甦っているのです。秀吉もこの季節に、この場所で、この風景を楽しんだのだ--と想像すると、タイムマシーンで桃山時代に戻ったかのような不思議な気持ちに包まれますね。
ぜひ、歴史の記憶を凝縮したかのように激しく咲きほこる醍醐寺のしだれ桜、是非ご堪能いただきたいもの。
この季節、ソメイヨシノが散ったら「花見は終わりました」「花は散りました」と、口をそろえる日本人。ソメイヨシノしか桜ではないかの語り口にムッとしているのは、八重桜も同様でしょう。
ソメイヨシノが散る頃、いよいよ開花し満開を迎える八重桜。名所はこれまたあちこちにございます。東京でいえば、たとえば新宿御苑の「フゲンゾウ(普賢象)」はいかが? 花の中心から二本の雌しべが突き出ていて、まるで「普賢菩薩が乗った象の牙に似ている」ということでその名前がつきました。個性的でしょ?
その他、新宿御苑にはクリーム色のウコン(鬱金)桜や、緑の花をつけるギョイコウ(御衣黄)など、珍しい色の花もズラリ。今年の大河ドラマは『八重の桜』ですから、ちょっと違った花見を堪能するのもまたオツな遊びになるのではないでしょうか。