現在の中国の高度経済成長は、しばしば日本のそれになぞらえられる。だが、両者はまったく別の展開を見せていると指摘するのは大前研一氏だ。以下は、大前氏の解説である。
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日本は1960年に池田勇人内閣が「所得倍増計画」を策定し、1964年の東京オリンピックを経て1967年に目標を達成した。さらに1970年の大阪万国博覧会開催後、1人当たりGDP(国内総生産)が1972年に3000ドル、1976年に5000ドルを超えるという急激な経済成長を遂げた。
中国も2008年に北京オリンピック、2010年に上海万博を開催し、1人当たりGDPは2008年に3000ドル、2011年に5000ドルを超えてきている。
しかし、これまで日本の高度成長とほぼ同じような軌跡をたどってきた中国が、これからも日本と同じパターンで成長していけるかといえば、答えはNOだ。
日本はその後1981年に1人当たりGDPが1万ドルを超えてバブル期に突入していったわけだが、それと同じようなパターンなら、中国も5年後に1人当たりGDP が1万ドルを突破し、アメリカを抜いて世界一の経済大国になってもおかしくはない。だが私は、むしろ5年も経たないうちに中国経済の崩壊が始まる可能性が高いと思う。
以前なら中国国民は、トウ小平の「先富論」=「先に豊かになれる者から豊かになれ。そして落伍した者を助けよ」という改革開放政策の基本原則により、誰もが遠からず豊かになれると信じていた。
しかし今では、その後段の部分はすっかり忘れ去られ、先に豊かになった者たちは誰も助けることなく、さっさと国を捨てて海外に脱出している。
たとえば、汚職が発覚した時に備えて家族や資産を外国に移し、単身で国内にとどまっている「裸官」と呼ばれる役人が118万人に達しているとされている。いざとなったら自分の身ひとつで海外に“高飛び”できるようにしているわけだ。
また、資産1000万元(約1億5000万円)以上の富裕層を対象にしたアンケート調査によると、すでに移民手続きを完了している人が14%、移民を考慮している人が46%もいる。富裕層はみな、いずれその富を奪われるか、富の形成過程を問われる日が来ることを恐れているのだ。
このためカネができたらアメリカ、カナダ、オーストラリアなどに移住することが当たり前になり、いま中国は「第三次」とも呼ばれる移民ブームを迎えているのである。
※週刊ポスト2013年3月29日号