不思議なボーナス闘争である。今年の春闘は“アベノボーナス”に沸いている。
春闘の牽引役であるトヨタはリーマンショックで赤字転落して以来、5年ぶりに今期の営業利益が黒字に転換する見込みだ。組合側は業績回復を背景に「年間ボーナス5か月+30万円(組合員平均205万円)」の一時金を要求、会社側は当初、渋っていたが、安倍首相の賃上げ要請を受けて一転、満額回答した。
ボーナス支給額は平均24万円のアップだ。春闘担当の宮崎直樹・トヨタ常務役員は、「総理の発言が重要な判断材料の一つになった」と、アベノミクス効果を強調し、3月14日には豊田章男・社長自身が官邸に出向いて賃上げを報告した。
トヨタに続けとばかりに、自動車業界では、ホンダ、日産、富士重工(スバル)など軒並み満額回答ラッシュとなった。社員からは久しぶりに明るい声が聞こえてくる。
「春闘の結果が派手に報道されたから、妻にも『満額回答おめでとう』といわれました。喜んでいるのは君の方だろうといいたいけど(笑い)。家電メーカーに勤めている学生時代の友人からも、『お前の業界がうらやましい』とメールが来ましたが、われわれの世代はまだ教育費や食費がかさむし、住宅ローンのボーナス払いも大きい。内情はそれほど裕福じゃないですよ」(40代後半のトヨタ事務系社員)
40代前半の日産事務系社員は、「晩酌は発泡酒や第3のビールではなく、本物のビールに変えようと妻に提案できます」と、“家庭内春闘”の明るい見通しを口にする。
一番喜びを隠しきれない様子なのは、マツダの50代社員(管理部門)だった。リーマンショック以降、「無配」が続いていた同社は、業績好転でボーナスが一気に業界最高の「1か月分増(平均31万5000円増)」となった。
「業界の中でもボーナス水準が際立って低かったから、社内には明るさが戻ってきた。1日も早くトヨタやホンダのように平均200万円超えの満額回答をゲットできるように頑張らなければと言い合っています」
※週刊ポスト2013年4月5日号