最も旬な女優が最も注目される枠でベストセラーを原作に挑んだドラマ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏は、収穫は意外なところにあったと指摘する。
剛力彩芽が古本店主を演じる、月9ドラマ「ビブリア古書堂の事件手帖」(フジテレビ系)。スタート当初は、人気アイドルの初主演ものとあって、鳴り物入りで始まったこのドラマ。いよいよ3月25日月曜日に最終話を迎えます。
ドラマは北鎌倉の古風な古書店が舞台。原作は3巻累計300万部を突破したベストセラー。夏目漱石『それから』、ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』、アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』、江戸川乱歩 『少年探偵團』……一話ずつ世界各国の小説や評論が登場し、その本をめぐって謎解きが展開されていくという、一風変わったドラマに仕上がりました。
何よりも個性的といえるのは、「フジの月9」という、これまで時代の表層を切り取ってきた最先端の領域に、「古書」という歴史と時間の深みを記憶する「知の森」をドッキングさせたこと。それは異分野のコラボレーションであり、果敢な挑戦と言えるでしょう。
当初、「古書店主」栞子の役は若い剛力さんには難しい役どころでは、と思われていました。が、知的で落ち着いた雰囲気を、自分なりの演技とテイストで作り上げることに成功した、と言っていいのではないでしょうか。
でも……物語世界に没入するのは、正直、私にはなかなか難しかった。古本に関する細かい設定や蘊蓄、推理を追いかけるのが苦手な私は、ドラマに寄り添うことを途中で断念してしまうことが、実は多々あったのです。
一方で、剛力古書店主の隠れファンが増殖している気配。それがちょっと意外な、月9ドラマにはあまり縁のない世代なのです。
本の時代を生きてきた書斎派。団塊の世代を中心にした中高年熟年男性たちです。マルクスにレーニン、漱石に鴎外、司馬遼太郎と、青春時代の人生の舵取りを、本に求めた人たち。「真実が本の中にある」と、信じてきた世代。
急速にデジタル化していく社会の中で、どこか取り残され感・疎外感を抱いていたそんな人々が、剛力さん演じる古書堂店主・栞子に、萌えているらしいのです。
栞子は、古書に関する知識は右に出る者がいないほど豊富。膨大な知識、鋭い観察眼で、古書に関する謎と秘密を解き明かし、出来事を解決へと導いていく。本について語る時の栞子は、雄弁で情熱的で、そして本への深い愛を感じさせます。古本なんか無関心、無関係と思われてきた娘世代が、「古本についての深い愛を語る」その姿に、しびれている団塊オヤジが私の周囲にもたしかにいます。
もし、「月9」というドラマ枠に対して、まったく新しい視聴者が生まれつつあるとすれば……14.3%でスタートした視聴率は11%前後の横ばい状態。でも、そんな数字なんて、たいしたことない。数字を凌駕する新たな収穫があったと言えるに違いありません。