ローソンなどコンビニ各社が賃上げを打ち出し、トヨタなど自動車各社もボーナスの満額回答を出すなど日本経済は活況に沸いている。 だが、そもそも大手企業の賃上げの動きは、本当に安倍晋三首相が宣伝するようなアベノミクスの成果なのか。
安倍首相が大胆な金融緩和を掲げた昨年の総選挙前後から、市場では円安・株高へと流れが変わり、輸出企業には朗報となった。トヨタは円安で業績予想を上方修正し、それが賃上げにつながったと強調されている。その通りなら、ボーナスアップの恩恵を受けるサラリーマンにとっては、まさに“神様、仏様、晋三様”ということになる。
しかし、同じ輸出産業の電機業界は円安でもそれほど業績回復はしていない。カブドットコム証券投資情報室長の山田勉氏の分析はこうだ。
「自動車業界はこの数年、リーマンショックで欧米の需要が冷え込んだうえに、東日本大震災やタイの洪水で部品メーカーが被災してサプライチェーンが寸断されるなど予期せぬマイナス要因に苦しめられてきた。しかし、現在ではサプライチェーンは回復し、欧米の需要が伸びて新興国の需要も堅調になりつつある。何よりも、その間に各社は企業努力で1ドル=70円台の円高でも黒字が出るところまで業績を回復させていた。
その一方で、電機業界は地デジ転換後のテレビ不況から抜け出せないなかで、韓国勢との競争に負けてリストラの真っ最中です。円安でようやく一息つけるという程度で、自動車のように大きな黒字が出る体質にはなっていません」
自動車業界の業績回復とボーナスアップはアベノミクスという“お上の恩寵”ではなく、あくまで企業努力の賜物というわけである。
トヨタ労組の鶴岡光行・執行委員長は春闘の結果について、「(アベノミクス効果は)申し訳ないが、ない」と語り、ホンダ広報部もこう説明する。
「軽自動車の販売が好調で、業務の見直しなどコストダウンが進んだ。一昨年のタイの洪水からの立て直しなど社員の頑張りに応えるということで満額回答になったもので、アベノミクスの影響で一時金がアップしたわけではありません」
※週刊ポスト2013年4月5日号