スポーツ

かつて日本プロ野球に存在した「国民リーグ」と「新日本リーグ」

 現在のセ・パ、イースタン・ウエスタン体制になる以前、日本には「幻のリーグ」があった。

 1つは、戦後すぐの1947年に結成された、国民野球連盟、通称「国民リーグ」と呼ばれる新リーグである。国民リーグは英語でナショナル・リーグ。つまり日本野球連盟のリーグをアメリカン・リーグに見立て、自らをその対抗馬にしようとしたのだ。創設者は、なんと1930代の宇高勲という青年実業家だった。

 自動車クラクション製造で財を成した宇高は、かねがねプロ野球に興味を持っていた。資金を手に入れ、いざ参入に動いた彼の作戦は、「有力選手を引き抜いて強力なチームを作れば、連盟もこちらを無視できないだろう」という、ずいぶんと乱暴なもの。
 
 そして実際に巨人・藤本英雄ら選手を引き抜き、チームをレッドソックスと命名、日本野球連盟に加盟申請する。悪いことをしているつもりはないので、堂々たるものだ。

 当然ながら連盟は新規加盟を拒否。鈴木龍二・連盟会長は球界の不文律を説き、有力選手を元のチームに戻すよう説得した。ただ、説得の中で「日本野球連盟とは別の、新しい野球連盟を作ったらどうか」という話が出た。新リーグという夢のある話に飛びついた宇高は、素直に選手を返しリーグ創設に動いた。

 結果、結城ブレーブス、唐崎クラウン、大塚アスレチックスが加盟。1947年の3月29日から公式戦を開始した。しかし球場の確保に苦労するなど経営が行き詰まり、結局たった1年でリーグは解散してしまった。

 もう1つの「新日本リーグ」は、高橋ユニオンズの加盟で7から8球団となったパ・リーグに脅威を感じたセ・リーグが、1954年に二軍で結成したリーグだ。このリーグがユニークなのは一軍とは別にフランチャイズが設定され、ニックネームも別の名称がつけられていたこと。

 読売ジュニアジャイアンツ(横浜)/阪神ジャガーズ(神戸)/中日ダイアモンズ(静岡)/洋松ジュニアロビンス(北九州)/広島グリーンズ(呉)/国鉄フレッシュスワローズ(大宮)

 一見アメリカのように、二軍が独立し地域密着型球団を目指しているようにも見えるが、実際の目的は別のところにあった。

 セ・リーグがパ・リーグの8球団制に脅威を感じたのは、「地方市場の侵食」という危惧だった。チーム数が増えればリーグの試合数が多くなり、地方での試合も増える。そこで対抗策として、二軍戦を地方開催することで市場の防衛を考えたのだ。そのため新日本リーグは地方遠征中心となり、フランチャイズ制は名ばかりの運営になった。

 しかし結局、パ・リーグの8球団制は脅威にはならず、翌1955年からセ・パ全球団の二軍を東西に分けたイースタンとウエスタンの二軍リーグが発足。新日本リーグは自然消滅した。

(文中敬称略)

※週刊ポスト2013年4月5日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン