賃上げラッシュが騒がれている春闘では、業績が好調な企業でもほとんど一時金(ボーナス)の増額ですませ、ベアを実施した企業は小売り業界のセブン&アイ・ホールディングス、イオンなど数えるほどしかない。
しかも、ベアの金額はセブン&アイ傘下のイトーヨーカ堂が平均月額907円(給料の0.26%)、イオンの小売り部門会社イオンリテールは38円(同0.01%)だった。2%の物価上昇を目指すといったインフレの備えにはまるで足りないのが現状なのだ。
安倍首相の賃上げ要請にいち早く応じて「年収3%アップ」を打ち出して注目を浴びたのはローソンの新浪剛史・社長だが、実は、同社は賃上げといいながらベアはゼロでボーナスを増額するだけである。
ある大手企業の広報担当幹部は宣伝戦略に舌を巻く。
「ローソンの今回のボーナスアップの対象は3300人で、必要な人件費の増額分はざっと5億円。年間100億円を超える同社の広告宣伝費の5%にすぎない。わずか5億円の一時金であれだけ賃上げの旗手のように報道されれば、広告効果は計り知れない。十分に元はとったはずです」
いずれの企業も本格的な賃上げに踏み込もうとはせずに、一時金といういわば“見せ金”で賃上げを演出しているにすぎない。
※週刊ポスト2013年4月5日号