西川文二氏は、1957年生まれ。主宰するCan! Do! Pet Dog Schoolで科学的な理論に基づく犬のしつけを指導している。その西川氏が、嗅覚に優れた犬の仕事について解説する。
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貴兄はどうでしょう、私め、春だなぁって、一番匂いで感じる。花粉症で、無理? それは失礼。ま、私めの話はいいとして、今回のテーマは、犬の嗅覚。
匂いは、鼻の中の嗅上皮にある嗅覚細胞で感じ取る。この嗅上皮の面積、犬は人間の10~20倍、そこにある細胞数はなんと40~60倍。
細胞数が40~60倍なら、嗅覚も40~60倍かって~とこれが違う。例えば貴兄の足の臭いの元、酪酸に対する感知度は、犬は人の百万倍。ツーンとくる酢酸に至っては一億倍。いや凄いもんですな。
さて、ご存じの通り、その鋭い嗅覚を活かして、犬は数々の仕事をこなしてる。少し前から話題なのは、がん探知犬。がん細胞には特有の代謝があって、そこで生じる揮発性の有機物質の匂いを、犬は感じ取れる。
トレーニング方法は、結果的にいいことが起きた行動の頻度を高めるっていう、当コラムの読者諸兄にはおなじみの、例の学習パターンを利用する。がん患者さんから拝借した匂いのサンプルを嗅ぎ当てたときには、テニスボールで遊ぶなどといった、いいことを起こすわけ。
ほか、おなじみのところでは、麻薬探知犬、変わったところでは、トリュフ探知犬、シロアリ探知犬、爆発物探知犬なんてのもいる。みんな、匂いをかぎ当てたら、いいことを提供。これで教える。
嗅ぎ当てるってのは、そのサンプルの前で止まったり、座ったり、ふせたり、吠えたりするってこと。麻薬探知犬なんかは、麻薬が隠されてる旅行の上に乗って、穴掘り行動をするように教える。
そういえば、カミさん連中の嗅覚にも恐れ入りますな。自分以外の女性が身にまとってる匂いには、極めて敏感。その感度は犬以上ではなかろうか。正直言って、あの能力をなにか他のことに活かせないですかね、人類のために。
※週刊ポスト2013年4月5日号