寝具6点セット、ワークデスクにチェア、カーテン&レース、電子レンジまでついて2万2000円――。大手家具チェーンの『ニトリ』が単身の新生活者向けに提案する“格安家具セット”だ。
度重なる「値下げ宣言」に象徴される低価格路線でデフレの勝ち組となったニトリ。昨年2月期決算では売上高3310億円、25期連続の増収増益を記録した。いまでは店舗数が300を超え、数ある国内の家具チェーンの中でも敵なしの規模を誇る。
儲け度外視ともいえる商品の大幅値下げを繰り返し、なお好業績を続けられる秘密は何か。
「自社で企画した商品、いわばプライベートブランド(PB)の家具を多く扱っているため、品揃えが豊富にでき、他社と価格競争になることはありません。また、中国など海外の自社工場で原料の調達や生産をしているため、徹底したコスト削減が図れます。製造から小売りまで一貫して行うことで、販売価格も自由にコントロールできるのです」(経済誌記者)
同社の直近の四半期決算を見ると、粗利益率はなんと約44.7%。つまり、単純に1000円の家具を売ったら440円の儲けが出る計算だ。通常、家具店の粗利益率は30%台の後半にのれば御の字と言われる中、いかにニトリが高収益体質を確立しているかがうかがえる。
だが、折からの円安基調は、輸入販売に頼るニトリにとっては逆風だ。「輸入品の調達コストは昨年の同月に比べて20%近く上がった」(中小家具メーカー)との声もあり、大手企業にとっては、なおさら頭の痛い問題だ。
ニトリホールディングスの似鳥昭雄社長は「適正な品質の低価格商品に顧客ニーズがある限り、円安でも値上げはしない」と宣言するが、消費税増税も控えてどこまで我慢できるか。こればかりは景気動向と消費者の財布のヒモを注視するしかない。
ニトリと同じく「他社の同等商品より最低20%安く提供する」ことをモットーに日本で7店舗を展開するスウェーデン発の家具チェーン『IKEA(イケア)』は、これまで低価格を実現させてきた独特の販売方法を見直している。
「IKEAの特徴といえば、倉庫のような店内で商品のセレクトから購入後の組み立てまで購入者に任せる受動的な販売方法でコスト削減をしてきました。それが昨年末から工務店と組んでキッチン設備の売り込みをしたり、UR(都市再生機構)の賃貸マンションで家具の選び方指南をするサービスを始めたりするなど、能動的な販売スタイルを模索しています」(前出・経済誌記者)
景気回復により住宅需要が旺盛になれば、家具の“大口顧客”も増える。販売価格の是正を含めて家具チェーンの綱引きは続く。『大塚家具』や『東京インテリア』といった高級輸入家具チェーンの販売も堅調だといい、可処分所得が増え出した消費者は価格に関係なく高級路線へと動き出した感もある。
となれば、為替に左右されず、高品質な国産家具に人気が集まってもおかしくない。日本家具産業振興会の広報担当者に聞いてみると、残念ながら純粋な国産家具そのものが減っているのだという。
「木製家具に適している広葉樹は日本に少なく、頑丈で長持ち、キズがつきにくく表面がキレイ……という日本人が好む家具をつくるには木材を輸入に頼るしかありません。主な輸入先は中国、ベトナム、台湾、インドネシアなどです」
同振興会がまとめた完成された家具の輸出入額(2011年)は、輸出額73億円に対して輸入額は2710億円と、輸入依存は一目瞭然だ。
「ただ、素材は海外でも国内で良質な家具をつくっていこうという中小メーカーや家具店はたくさんあります。日本の職人がつくれば、強度試験やシックハウス対応をしっかり行うなど、根拠のある品質のいい国産家具がたくさん生まれて市場ももっと活性化するはずです」(前出・広報担当者)
長年使う家具だからこそ慎重に選びたい。気持ちを新たにこだわりの家具を探し歩くには、絶好のシーズンである。