泣きっ面に蜂とはこのことか。1月に発生した米ボーイング787型機の発煙トラブル、そして3月27日には三菱自動車の電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に発火の恐れがあることが報告された。
次世代のエコ技術がふんだんに盛り込まれた航空機と自動車で相次ぎ起きた不具合問題。しかも、2件ともジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)製のリチウムイオン電池が搭載されていたことから、関連性の有無も含めて同社に対する風当たりは一層強くなっている。
もともとGSユアサは京都の優良企業として名高い電池メーカーで、その高い技術力には定評があった。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が語る。
「イメージは先鋭的な研究者集団。特にリチウムイオン電池事業では、エコカーをはじめ、特急電車向けの蓄電池や人工衛星、ロケット、深海探査用途まで、あらゆる一品モノを即座につくる対応力はズバ抜けています。そうした実績も買われて航空機用としてもGSユアサに白羽の矢が立ったのです」
リチウムイオン電池とは、充電と放電を繰り返す2次電池のことで、日本の将来を担う主力産業のひとつとして期待されている。例えば、モーターパワーの凄まじい電車は発電抵抗によって停まる回生ブレーキの技術が使われている。その際、発生した電力を溜めておくリチウムイオン電池が欠かせないというわけだ。
すでに海外でもソニーやNEC、東芝などが手掛ける日本製のリチウムイオン電池が6割のシェアを握り、GSユアサも大手メーカーに引けを取らない存在感を見せている。だが、耐久性や高容量、そして小型化を進める開発競争が激しさを増すにつれ、GSユアサの高い技術力に裏打ちされた“優越性”が次第に薄まっていたのでは、との指摘もある。
GSユアサと協業する開発メーカーの幹部がいう。
「技術力は折り紙つきですが、いまリチウムイオン電池は需要拡大期で量産化のスピードが求められている。簡単に缶詰でも作るように安全で高性能な電池をつくる生産技術が必要なんです。GSユアサにはそういったスピード感や投資意欲が足りない」
自動車搭載用でGSユアサと手を組むのは三菱自動車とホンダだが、一部のEVでは東芝製が採用されている。つまり、「選択肢はGSユアサだけではない」との風潮があったことも既成事実なのだ。
今回の三菱トラブルも、GSユアサが他社も含めて量産化を急かされ、生産のキャパシティーを超えてしまったがゆえに齟齬が生じたのだとしたら、事態は深刻だろう。前出の井元氏もその可能性を危惧する。
「電池を構成するセルは、クリーンルームみたいな場所でつくり、少しでもゴミが入ったら使い物になりません。ものすごい神経を使う工程でノウハウが要ります。そこに問題を抱えているとしたら、大量生産するやり方のレベルを一歩上げなければなりません。重大な事故が起きてからでは、それこそGSユアサというブランドイメージの毀損は免れません」
もちろん、航空機、自動車の不具合ともにGSユアサ製のリチウムイオン電池に原因があったと結論づけられているわけではない。しかし、「火のないところに煙は立たぬ」のことわざもある。GSユアサには製品の安全性を念入りに再点検し、揺らぎない技術力をもって次のステップに進むほかない。
逆境をはね退け、来るべきリチウムイオン電池の普及期にトッププレーヤーになれるか。GSユアサにとって今が正念場だ。