がんは日本人の「国民病」ともいわれ、男性の54%、女性の41%が罹るといわれる。いつあなたやあなたの家族が冒されてもおかしくない病だが、がんが脅かすのは、私たちの命だけにとどまらない。
検診で肺がんが見つかった40代の男性会社員・Aさん。幸いにも、がんがあまり進行していない「ステージ1」の段階で発見することができ、そのことを会社の人事や上司に相談すると、「会社を休め」と指示された。営業職のAさんは会社の配慮に感謝しつつ、休職して治療に専念した。
それから3か月後、がんが癒えたAさんは仕事に復帰。ところが会社にはもう、Aさんの席はなかった。Aさんは就業規則に定めてある2週間の休職期間を過ぎても出社しなかったとして会社から「解雇」されていたのである――。
「私は全身がんなので、来年の仕事はお約束できない」
女優・樹木希林(70)のがん告白が大きな波紋を呼んだのは記憶に新しいが、「がん闘病と仕事の両立」という問題は、今や私たちにとって極めて深刻な事態となっているのだ。
厚生労働省研究班の調査によると、がんを患った勤労者のうち、それまで働いていた職場を「依願退職した」という人が30.5%、「解雇された」という人が4.2%。両者を合わせると34.7%、つまり3分の1以上の人が、がんを発病したために離職せざるを得なくなっていることになる。
また、ソニー生命が2011年に実施した調査では、がんを患った人の42.0%が、発病後、「収入が減少した」とも回答している。
「日本企業の多くが業績を回復できていない現況をみると、がん患者をめぐる雇用の実態は、さらに悪化していると予想されます」(社会保険労務士)
今やがん患者の「5年生存率」は5割を超え、長期入院をせずとも通院によって治療可能なケースも増えている。こうした医学の進歩で、仕事をしながらがん治療をしようと考えたり、がんが治ってから仕事に戻ろうとする人は多いだろう。しかし、現実は“職がない”という事態に陥りかねない厳しいものなのだ。
がんになったうえに、もし仕事をも失うことになれば、精神的にも経済的にも追い込まれることは間違いない。
iPS細胞の応用など、「がん特効薬」開発の研究が注目を浴びているが、多くのがん患者にとっては、治療代や日々の生活を支える職を失う「がん失業」が、切実な問題となっているのである。
※週刊ポスト2013年4月5日号