就職、転職のシーズンに突入し、受ける側と採用する側の知恵比べが繰り広げられているが、大前研一氏によれば、企業が間違わずに人材を登用できる採用術があるという。以下は、大前氏の解説だ。
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もし、私が就職や転職の採用面接官だったら、まず「あなたが当社に入社したら、具体的にどんな仕事ができますか?」と質問する。言い換えれば「あなたの“名札”を見せてください」と聞くのである。
それに対して「私は協調性があって同僚や部下と円滑に仕事を進めることができます」とか「上司から与えられた仕事は必ずきちんとこなします」とか答えるような人は、絶対に採用しない。与えられた仕事を与えられた通りにやっているだけの人には“名札”がつかないので“値札”もつかないのだ。
したがって私が面接担当官だったら「なぜ、あなたはトップになったのですか?」「あなたの売り方と他の人の売り方はどう違ったのですか?」といった質問をする。それで“今の商談”を追いかけて一巡すると“昔の商談”に戻るというやり方を繰り返していただけであれば、採用しない。
自分の時間の50%を今の商談に使い、あとの50%をポテンシャルの高い新たな商談を追いかけることに振り向けるタイプでないと、将来にわたって業績を伸ばすことはできないからだ。
一方、「他の人にできない三つ」を挙げる中で、たとえば「新事業を提案して立ち上げ、10億円規模に育てました」「従来の主力商品とは別の商品を売って主力商品と同じぐらいのボリュームに伸ばしました」「自分の部署の財務を劇的に立て直しました」といった“名札”がつく具体的な「物語」を語れる人物なら、即採用する。
そして、その“名札”に合わせて“値札”も前に勤めていた会社の2倍、3倍に引き上げるだろう。
この方法で、私はマッキンゼー日本支社長時代に540人を採用して成功した。全く使いものにならなかったのは、そのうち1人だけであった。
※週刊ポスト2013年4月5日号