期待を裏切った作品があれば想像以上の反響もあった冬ドラマ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が総括した。
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いよいよ3月も終わり。冬ドラも次々に最終回を迎えて大団円。
「民放の連ドラは15%が合格ラインといわれるが、はるかに下回っている」「ドラマ冬の時代は避けられそうにない」(J-CASTニュース)
というように、視聴率を根拠にテレビドラマの低調ぶりを嘆く言説は多い。けれど、私はそう思いません。細かなところに丁寧な工夫が凝らされ、ストーリーに限らず演出や構成がとても斬新だったり、役者がすごい集中力を発揮したり、新しい個性を見せてくれたり……。秀逸な娯楽作品が、今期のドラマにも確実にあったからです。
ドラマを録画して見る人も増えた今日この頃。放映時の視聴率という、古典的な数字だけでは評価しきれないドラマの中身。そこで、数ある冬ドラの中から、視聴「質」を軸に「極私的ベスト3」を選んでみました。
●1位 『書店員ミチルの身の上話』(NHK)
「もし、偶然手にした宝くじが、2億円の当たりくじだったら…。」がキャッチコピーの10回ドラマ。平々凡々とした地方都市の一書店員・ミチルが2億円の宝くじを当て、本人と周辺の人々の運命が急激に狂いだし、何人もの人が死んでいく、という物語。
絶対にありえない、闇の夜に針の穴を通すような物語設定。なのに、もの凄いリアリティ。ぐいぐい引き込まれました。ミチルを演じた戸田恵梨香は、いかにも地方都市の平凡な書店員という役作りで二重マル。安藤サクラや高良健吾、濱田マリ、新井浩文の脇役陣もぴりりと効いた。
芝居上手な役者を配置し、説明セリフを廃し、衣装からセット、ロケ地の選定まで的確。物語世界の雰囲気・空気感をしっかりと際立たせた映像センス。演出家とスタッフに大きな拍手です。ファンタジー世界にどっぷりと没入させてくれた、という意味で、この作品は「映画的」に成功した作品でもありました。ちなみに10回の平均視聴率はたったの「6.1%」でした。
●2位 『ミエリーノ柏木』(テレビ東京系)
AKB48・柏木由紀の連続ドラマ初主演作。触れた相手の恋愛にまつわる近未来が見えてしまう、特殊能力を持つカフェ従業員・柏木が、さまざまな恋愛模様に出会い、自分自身も変化していくという風変わりなドラマ。
風変わりといえば、毎回オムニバス形式でドラマツルギーとしては掴みにくいけれど、カフェのマスター演じる佐野史郎、手伝いの今野浩喜(キングオブコメディ)と柏木が交わす会話が実に味わい深い。それに加えて、言葉を使わないアイコンタクト、表情、しぐさのコミュニケーションの妙が。
「素」と「演技」、「実」と「虚」が出たり入ったり、押したり引いたり。ドラマの途中でドキュメンタリー的映像が差し挟まれ、トークゲストと柏木が生な会話。この仕掛けと演出も秀逸です。企画・原作が秋元康ということを何も知らずに見始めましたが、その不思議な空気感の出来具合に唸らされた。先入観なく入ることができて、むしろラッキーでした。
視聴率は(深夜枠で相手にされていないためか調べてもよくわからない)最初の数回は2%程度。その存在すら、限られた人しか知られていないドラマでした。
●3位 『カラマーゾフの兄弟』(フジテレビ系)
3兄弟の長男・黒澤満は斎藤工、次男の勲を市原隼人、三男の涼を林遣都。3人の男優が鮮やかにキャラクターを演じ分け、見ていて楽しかった。そして父・文蔵を演じた舞台役者、吉田鋼太郎の怪気炎が凄かった。
目をむき、声が響き渡り、汗が飛んできそう。肉体的感覚が画面からはみ出してきそうなドラマ。という意味で、テレビの枠組みを超えてとても「舞台的」でした。ちなみに平均視聴率は「6.3%」。
1位は「映画的」で映像センスの良さが際だった。2位は「虚と実の融合」する浮遊感覚がおもしろかった。3位は「舞台的」な直接性に、ぐっと掴まれました。
でも、視聴率については3つの作品を足しても、「民放連ドラの合格ライン」の15%に届きません。通知票の数字がいかに無意味なのかとしみじみ感じ入ってしまいます。
<番外編>順位には入らなかったけれど、個性を放った次の三作品も忘れられません。
・『ビブリア古書堂の事件手帖』 古書をテーマにドラマ化とはあっぱれ。細かな謎解きが好きな人にはたまらない仕上がりに。
・『まほろ駅前番外地』 瑛太と松田龍平の空気感がいいけれど、すでに映画になっているので番外に。
次の春ドラマもぜひ、輝く個性的作品を生み出してほしい。制作陣のみなさん、応援しています!