がんは日本人の「国民病」ともいわれ、男性の54%、女性の41%が罹るといわれる。いつあなたやあなたの家族が冒されてもおかしくない病だが、がんが脅かすのは、私たちの命だけにとどまらない。職業の維持にも大きな影響を与えるのだ。
「私もがんのために、以前勤めていた会社を辞めざるを得ませんでした」
と語るのは、一般社団法人CSRプロジェクト(以下CSR)代表理事の桜井なおみ氏である。桜井氏は2004年に乳がんと診断され、闘病生活へ。治療のため8か月の休職を経て復職したが、再発予防の治療や定期的な検査などで有給休暇を使い果たし、仕事量の調整もままならないことから、結局、退職を余儀なくされた。
そうした自身の経験から、同様の境遇の人が働きやすい社会を作ろうと、がん患者の就労支援プロジェクトを立ち上げた。CSRでは電話でがん患者らの相談に応じているが、そこには次のようなケースも寄せられている。
Aさん(30代男性)がスキルス性胃がんにかかったのは、営業部長として活躍していたときのこと。Aさんの精神的ショックは大きかったが、追い打ちをかけたのは会社側の対応だったという。
がんと判明した段階で部長職から平社員に降格。胃の全摘手術と抗がん剤治療を受け、退院後すぐに職場に復帰したが、自分の席についたとたんに上司にいわれたのは「実家に帰って家業を継げ」という言葉だった。
Aさんは「こんな会社にいられるか!」と啖呵を切って会社を辞めたが、いい表わせないほどの喪失感に襲われたという。
また、金融会社に勤めていたBさん(40代男性)は肺がんの治療のため休職していたさなかに、会社が他社によって吸収合併された。治療に区切りがついて出社すると、同僚は全員再就職の斡旋リストに入って職探しの支援を会社から受けていた。しかし、Bさんの名前はリストになく、結果的にBさんは職を失うことになった。
女性ではパワハラに等しいケースもある。Cさん(30代女性)は乳がんの外科治療とリハビリを経て3か月後に復帰したが、驚いたことに、自分のロッカーがなくなり、私物もすべて捨てられてしまっていた。
「本人は会社側に、いつから復職できるかを事前にきちんと伝えていました。ところが休職中に上司が変わり、申し送りができていなかったために、新しい上司が独断でそうした行動に出たようです。結局、Cさんは居づらくなって転職を余儀なくされてしまいました」(前出・桜井氏)
※週刊ポスト2013年4月5日号