株価上昇、賃金アップとほとんどのメディアは「アベノミクス礼賛」ムード一色に染まる。だが、本当に景気はよくなっているのか。オフィス街やネオン街を走り、景気を肌身で感じている東京のタクシードライバー100人を本誌が緊急調査すると、「安倍バブル」の本当の姿が浮かび上がってきた──。
調査は桜の開花宣言が出され、春の陽気に包まれた3月15~20日にかけて、都内のタクシー運転手を対象に実施。景気回復の実感、実際の売り上げや実車距離などを聞き取った。世の中の経済状況にモロに翻弄されるのがこの仕事の特徴だ。調査中に出会ったある運転手は、記者に自分の給与明細を提示して、こう嘆いた。
「タクシーの給与体系は歩合制なんです。ただ、50万円“水揚げ”しても、今はもらえるのはたった22万円です。そのうえ毎月ノルマがあり、下回ると天引きされる。達成できない月がほとんどですよ。
10数年前はね、真面目にやってさえいれば達成できたんです。でも今は真面目だけではダメで、ツキも必要。これだけ景気に左右される職種もないですよ」(60代法人)
景気の良し悪しがそのまま死活問題となる運転手たちの声だからこそ、説得力がある。以下、調査結果と回答を紹介していこう。
問:景気がよくなったといわれているが、この1か月間で実感はあるか。
結論からいえば、やはりというべきか、67%が「NO」と回答した。運転手たちが口を揃えるのは「株価だけでなく、一般企業の業績や給料が上がらないと意味がない」というものだった。
3月は歓送迎会シーズン。タクシー業界にとっては12月に次ぐ稼ぎ時だが、
「新宿や池袋は相変わらず、客待ちのタクシーの行列ばかりで何も変わった気がしない」(50代法人)
「ほとんどが終電までにきっちり帰宅するから厳しいし、遅くまで飲んでいても、漫画喫茶や個室ビデオなどで始発を待たれてしまう」(40代法人)
という声が目立った。リーマンショック以前の水準に回復した日経平均株価などにも、冷めた見方がほとんどだ。
「株や不動産を持っている人だけが儲けたんじゃあ、ほとんど影響はないでしょう」(60代法人)
「給料アップを感じるのは夏のボーナスが出てからの話。それまで利用客の財布の中身は変わらないから期待もできない」(40代法人)
一方で、景気回復を実感していると答えた人が27%に上る事実も看過できない。中には「安倍バブル」の影響を感じさせる意見もある。
「終電時間帯でも『これから三次会に行く』というお客がいた。そんなフレーズはバブル以来」(60代個人)
「六本木に人が増えた。右も左も空車のタクシーということが減ってきた」(50代法人)
──ただ、これらはむしろ少数派だ。「下げ止まった感じがするだけ」、「震災で落ち込んだ一昨年や昨年から持ち直しただけ」といった意見が大半を占める。
※週刊ポスト2013年4月5日号