低迷相場が続く中国株だが、名実共に習近平指導部が発足したことで潮目は変わるのか。今後の中国株の見通しを中国株のスペシャリストでTS・チャイナ・リサーチの代表、田代尚機氏が予測する。
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深刻な大気汚染もあいまって、昨年のGDP(国内総生産)成長率が8%を割り込んだことなどから、中国経済の視界不良を指摘する声が広まっている。
ただ、GDPの四半期ごとの推移をみると、昨年第3四半期の7.4%成長から第4四半期は7.9%成長へと0.5ポイントも回復。昨年8月を底に緩やかな回復基調となっていることが見て取れる。
問題はこれから力強く回復していけるかどうかだが、そこで注目しておかなければならないのは「政策」だろう。現在、中国は長期で安定的な経済発展を遂げていくために、さまざまな政策をとっているが、そのキーワードは大きく3つある。
まずは「都市化の進展」だ。農村部では農業従事者が余剰となっており、人をいかに減らして生産性を上げるかが課題となっている。そこで農民を都市に吸収していくという「都市化」の方針が昨年11月の共産党大会で打ち出され、いまやこれが政策の目玉になろうとしている。
それも中国各地に効率よく都市化を進展させていき、観光や金融、ITなどそれぞれの都市が特色を持って、国家全体のバランスがとれるような発展をさせようとしている。
加えていえば、先の共産党大会では「5つ(経済、政治、文化、社会、生態文明)の建設をしっかりと行なうことで、『美麗中国』を建設し、中華民族未来永劫の発展を実現する」といった内容が報告書で謳われた。要は環境問題を重視して、ITなどを駆使し、効率的なエネルギーで賄えるような最先端のスマートシティを各地に広げたい、ということなのだ。
はたしてそれがうまくいくか。そもそも中国にはリーマン・ショック後に打ち出した4兆元の景気対策で生じた副作用がある。不要不急の設備投資が増えた結果、供給過剰に陥り、不動産バブルを引き起こし、深刻なインフレに見舞われた。その反省を踏まえてうまく調整して進めることができれば、本格的な内需主導型経済への転換となるのは間違いない。
2つ目のキーワードは「資本市場改革」である。中国本土の株式市場は個人投資家の売買比率が高く、どうしても不安定な値動きになりやすい。そこで海外の機関投資家が投資しやすい環境に規制を緩和しようとしている。
具体的には、これまで本土A株市場ではQFII(適格海外機関投資家)として認められた投資家でなければ取引できなかったが、その投資枠を従来の9~10倍に増やすほか、機関投資家にのみ認めてきた人民元建ての投資枠も海外の適格な個人投資家にも広げる、と当局は発表している。とはいえ、QFIIを10倍まで拡大したとしても、時価総額の16%程度にとどまるものの、外資が流入することで中国株が厚みを増すのは必至の情勢といえるだろう。
そして、3つ目のキーワードが「所得分配による消費拡大」である。いま中国では消費の中心となる中間層の拡大に向けて、最低賃金の引き上げや社会保障制度の整備など「所得分配改革」が矢継ぎ早に進められている。それによって消費を引き上げ、内需拡大につなげるという狙いである。
これら3つの政策によって、中国は質のよい経済成長を志向しているため、景気の過熱だけはぜひとも避けたいところだろう。仮にGDP成長率が再び8%を超えて9%に迫るようになれば、当局は金利引き締めなどのブレーキをかけてくるに違いない。
先を見通すと、おそらくGDPは政策の効果もあって、今年第2四半期までは緩やかに伸びていくだろう。問題は、その先である。第3四半期(7~9月)の成長率が8.4%程度までなら許容範囲だが、それを上回るようであれば、過熱警戒感から景気を冷やすために金利引き上げに転じることも予想される。
金利が引き上げられれば、株価にも影響を及ぼすのは必至で、中国株の先行きは今年後半に不安要因をはらみかねない状況も見えてくる。目先でいえば、そうなる前の年前半に勝負すべきではないだろうか。
本土を代表する上海総合指数でいえば、大台の3000ポイント回復も視野に入るが、それも前半までと見た方がいいかもしれない。
※マネーポスト2013年春号