野田佳彦前首相が解散宣言をした昨年の11月14日から始まった日本市場の上昇相場。その11月第2週から外国人投資家は買い越しに転じている。それから一度も売り越しになることなく、徹底して買い越し続け、3月中旬までの累計買越額はおよそ6兆円に達した。
莫大な利益を上げた彼らは、すでにいかに売り逃げるかの出口戦略を練り始めているという。そうなれば、これからまだ株は上がると信じて買い始めた国内の投資家は痛手を負うことになる。
なぜ日本の証券市場なのに外資ばかりが儲けて、国内投資家は損をしなければならないのか。実は、そうした環境を整えているのは日本の金融当局なのだから開いた口がふさがらない。
金融庁は3月7日、株の空売り規制の緩和を今年11月をめどに行なうと発表した。その目玉は全面禁止していた市場価格以下の値段での空売り注文を緩和し、米国と同様に一部、市場価格より低い値でも空売りができるようにすることだ。
それによって空売りしやすくなるのはもちろん、株価急落時には下落に拍車がかかることになった。
「その規制緩和は外資マネーを呼び込んで好景気を演出したい安倍政権の方針だ。欧米金融当局の要請ともいわれているが、どちらかというと日本がすり寄っていったという見方のほうが正しい。何としても株価を上げたい黒田東彦・新日銀総裁の就任祝いでもある」(金融庁OB)
また、今年の1月から個人投資家の信用取引の証拠金規制が緩和され、実質的に無制限で取引できるようになった。それによって個人投資家の取引量は劇的に増えたが、その緩和も空売りを助長するものだ。
ネット証券大手などは、個人投資家から保有する株式を預かって、貸株料を支払うサービスを行なっている。そして、その預かった株は外資系金融機関などにまた貸しされる。外資が借りる大きな目的の1つは、空売りを仕掛けるためだ。
「寄り付き前に外資系証券から貸株の打診があった際、結果的に暴落銘柄の空売りに利用されたことが後でわかるケースが多い」(大手ネット証券関係者)
だが、ちょっと待ってほしい。空売りをしやすい制度にして、喜ぶのは一体誰なのか。「金融」とは本来、成長を目指す企業に資金を提供したり、家を買うまとまったお金のない国民に購入資金を貸したりして、社会全体が豊かになるためにカネを回す仕組みである。その目的において空売りなど不要だ。必要としているのは、金融という仕組み自体で儲けている人たちだけではないか。
経済ジャーナリストの小泉深氏が怒る。
「空売り規制を緩和するなら、せめて利益確定の際の税率を引き上げるなどの策も合わせて講じないと、金融マフィアだけを儲けさせることになる。そして、結局は中小型銘柄である成長企業には資金は回っていかず、実体経済の上昇には結びつかない。
安倍政権は外資系金融に利益を根こそぎ持っていかれることがわかっているのに、目の前の好景気を演出したいがために規制緩和しているとしか見えない。一体、誰のための緩和なのかと強くいいたい」
※週刊ポスト2013年4月12日号