野球熱が最も高まるこの時期、雛鳥の巣立ちを見守るごとき心境でいるのがスポーツライターの安倍昌彦氏である。“流しのブルペンキャッチャー”として全国の名だたるアマチュア選手の球を受けてきた安倍氏は、“二刀流”で注目の日本ハム・大谷翔平をこう分析する。
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日本のプロ野球で、いまだ誰も成しえた者のいない投打の“二刀流”を目指す日本ハム・大谷翔平(18・花巻東)。投手としてはオープン戦では1、2イニングの中継ぎとして、“研修登板”。プロの水に慣れさせようというところか。二刀流ではこれがいっぱいいっぱいだろうが、大谷の投の“器”はこんなものじゃない。
私が大谷の球を受けたのは、昨秋のことだった。高校野球を引退し調整程度の練習しかしていない時期でも、こちらのミットに150km近い剛速球をたたきつけ、スライダーは真横にぶっ飛んで、ミットの前から消えた。しっかりと腰が割れて重心は沈んでいるのに、あり得ない高さから投げ下ろされる未体験の球筋。バッターじゃない。大谷は間違いなくピッチャーだ。
そのスライダーは、あのダルビッシュ有(レンジャーズ)の150km超のストレートと激しく動く変化球を受け止め続けた鶴岡慎也捕手(日ハム)にまで「オレの反射神経の限界だ」と言わせたほどのキレ味。躍動感にボディーバランス溢れる豪快な投球フォーム。それになんたって、マウンドの立ち姿がこんなに美しい投手なんて、そうはいない。捕手としてミットを構えながら、その“華”に何度も見とれたものだ。
中継ぎで1イニング。冗談じゃない。大谷は近い将来、笑いながら20勝できる投手だ。但し、投手として本気で鍛えればの話。二刀流が大谷という大輪の健全な成長を妨げなければよいのだが。
※週刊ポスト2013年4月12日号