京都大学が発表した教養課程の「英語化」に見られるように、英語の重要性が高まっている。これらを「自然な流れ」と語るのは、京大で教鞭をとる瀧本哲史氏だ。『僕は君たちに武器を配りたい』をはじめとする“武器シリーズ”がベストセラーとなり、京大の講義も人気を博す瀧本氏は、マッキンゼー出身のエンジェル投資家という顔も持つ。京大で「起業論」も教える瀧本氏に、起業の現状と、今後の日本経済を聞いた。
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――先生の「起業論」の授業は、大変な人気だとお聞きします。実際、京大を出て起業する人は、どれくらいいるんでしょうか。
瀧本:そんなに多くはないですね。僕はそもそも、大学を出てすぐの起業に、あまり賛成ではないんです。本にも書きましたが、どこか大企業にしばらくいて、そこで会社や業界の弱点を探して、それを元に起業するのが一番成功するパターンです。就職できないから起業するというのも間違っています。起業というのは、実力のある人がするのであって、追い詰められた人がするものではない。
たとえばネットメディアで、資本力はそれほどないのに成功しているのは「J-CAST」です。J-CASTは『AERA』の元編集長が立ち上げたメディアですよね。よくわかっている人が起業したほうが成功する確率は高いのです。
――世界的にそうなのですか?
瀧本:それが世界の王道です。インテルだってフェイスブックだって、グーグルだって、同業他社を辞めた人が創業にかかわっています。アップルが成功したのも、インテルでマーケティング部長を勤めたマイク・マークラの功績が大きい。学生が会社を大きくしたというストーリーは喧伝されがちですが、それだけで会社は大きくならないのです。
――起業するのに必要なことってなんでしょうか。
瀧本:能力は言うまでもありませんが、まとまったお金も必要になります。が、日本でサラリーマンをしていると、住宅と教育にお金がかかりすぎて、相応の額のお金が手に入らない。そういう意味で、リクルートには期待しています。今年株式公開(IPO)したら、億単位を手にする人が出るでしょう。彼らがどう動くのか。グリーもストックオプションの行使タイミングが近いので、新たな事業が生まれるきっかけになるかもしれません。
夫婦でリスクヘッジするのもありだと思います。旦那さんが堅い仕事についていて、奥さんが起業する。その逆もしかりです。私の投資先にもこういうパターンは結構います。
――最近は、マッキンゼー出身の起業家の活躍が目立ちます。先生もマッキンゼーご出身ですが、強さの秘訣は何でしょうか。
瀧本:マッキンゼーは、日本では特殊な人気企業として語られがちですが、海外においてはエスタブリッシュメント的な会社です。日本で言う、大手商社みたいな存在ですね。人気があってみんなが入りたがるけど、必ずしもクールではないよねと。
いま日本では、卒業生がメディアで目につくようになっていますが、それはピークアウトの兆候です。産業として、あるいは会社として、成熟期に入っているということですね。コンサル業界も競争が激しいですからね。ただ、出身者を「アラムナイ=卒業生」と呼ぶ言葉のとおり、教育機関、ネットワーキングの場として優れていたのは確かですね。
――最後に、アベノミクスへの期待が高まっていますが、景気は上がっていくのでしょうか。
瀧本:景気について言えば、正しい金融政策をすれば景気が良くなるのは当たり前です。それ以上でもそれ以下でもない。ただ、正しい金融政策が行われるというのが、日本においては、難しかった。今後も全く予断を許さない。
日本のメディアはとかく「こうなる」と断言しますが、物事は単純ではありません。わかりやすい答えを求める人が多いから、メディアはそういう人たち向けに書いているのであって、本当のことを書いていない。売れると思っていることを書いているだけです。たとえば「The Economist」などは、日本とは全然違う報道をします。海外の違う視点の報道と読み比べできるのも、英語ができる大きな利点の一つですね(笑)。
【たきもと・てつふみ】
東京大学法学部卒。同大学院法学政治学研究科助手、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立。現在は、エンジェル投資家、京都大学客員准教授。NPO法人全日本ディベート連盟代表理事、星海社新書軍事顧問などもつとめる。著書に『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』