プロ野球が29日に開幕し、スポーツライターの安倍昌彦氏は雛鳥の巣立ちを見守るごとき心境だ。“流しのブルペンキャッチャー”として全国の名だたるアマチュア選手の球を受けてきた安倍氏は、大阪桐蔭で春夏連覇を成し遂げた立役者・阪神のドラフト1位の藤浪晋太郎についてこう語る。
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藤浪晋太郎(18・大阪桐蔭)は名門・阪神タイガースの低迷を立て直せる男だ。このオープン戦でも先発ローテーションの一員として登板。ピシャリと抑えたり、逆に試合中盤に捕まったり、プロへの登竜門でこれ以上ない経験を積んだ。
藤浪のすごさは197cmの超長身から投げ下ろされる150km前後の速球に、スライダー、フォーク、カットボール等々の多彩な変化球の威力だけじゃない。高校時代、藤浪の囲み取材は上質な“トークショー”であった。
彼を囲む記者たちは様々である。藤浪はまず質問者の目をジーっと見つめながら質問者の野球の理解度、自分に対する理解度を観察し、そのレベルに見合った内容の答えを簡潔に返す。高校生ながら聞き上手だな、と思ったものだ。
その聞き上手を彼はそのままピッチングに生かす。向き合った打者の目つき、顔つき、立ち位置、仕草をじっと見つめ、その実力を見抜く。そして、そのレベルに見合ったボールを投げて料理する。故に、いつも全力投球しなくてもよい。だから試合後半までスタミナを保て、あの炎暑の甲子園を連投した末の決勝戦の最終回に平気な顔で150kmを投げることができるのだ。
そうは言っても高卒ルーキー。1、2年はファームで体作りを――そう考える向きも多いだろうが、藤浪の心身は既に大人の闘う男になっている。もちろん先発ローテーションで、そりゃあカベに当たることもあるだろうが、終わってみれば10勝7敗。その辺が最低ラインだと思っている。
※週刊ポスト2013年4月12日号