北朝鮮の核実験でコケにされた習近平指導部。権力闘争の内幕をジャーナリスト・相馬勝氏が解説する。
* * *
北京の外交筋によると、中国は軍の偵察衛星の画像などから、北朝鮮が核実験の準備をしていることを察知し、1か月も前から再三「実験中止」を求め、実施すれば、「重大な結果を招く」と警告していた。さらに、核実験を思いとどまらせるために党・政府高官による特使派遣を打診したが、北朝鮮指導部は「特使は受け入れない」と中国に通告したという。これは明らかな話し合い拒否であり、「前例がない」と同筋は語る。
北朝鮮の頑なな姿勢に苛立ちを強めた習近平指導部は1月22日、国連安全保障理事会で、昨年12月にミサイル発射を強行した北朝鮮に対する制裁強化に関する「2087号決議」に賛成することを決めた。中国が対北制裁決議に賛成したのは今回が初めてだ。
それを機に、北朝鮮は中国への批判をエスカレートさせていく。決議採択の翌23日、北朝鮮外務省は「間違っていることを知りながら、それを糾そうとする勇気も責任感もなく、誤った行動を繰り返すことこそが、自身も他人をもだます臆病者の卑劣なやり方だ」との声明を発表。
さらに、北朝鮮国防委員会も24日、「米国への盲従で体質化された安全保障理事国らが案山子のように(決議賛成に)手を挙げた」と述べて安保理を批判した。二つの声明は名指しこそしなかったものの、中国を「臆病者」「案山子」と言い放つ辛辣さだった。
さらに、25日付の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は「一国の自主権を強奪する非合法な決議案に賛成した国々は自分らの行動が何を意味しているのかも知らない」としたうえで、「我々に対する圧力はいつの日か自分の首を絞める結果をもたらすだろう。(中略)自主権は国と民族の命だ。それを失った国と民族は生きていても死んだも同然だ」と論評して、今後も核開発を続けていく意思を表明した。
そして2月12日に実際に核実験を強行すると、中国の楊潔チ・外相は池在龍・駐中国大使を外務省に呼んで「厳正な抗議」を行なった。中国が「唇と歯の関係」「血で塗り固めた友誼」と形容して友好関係を保ってきた北朝鮮の大使を呼びつけて抗議するのは極めて異例。「中国の特使受け入れ拒否や対中批判に習近平指導部は大きな衝撃を受けた」と同筋は明かす。
その後、中国ではメディアの報道や北朝鮮専門家などの談話が北朝鮮非難一色に染まっていく。国営新華社通信は「実に愚かな行為」と批判する評論記事を掲載し、「国際社会の反対を無視した行為で、朝鮮半島情勢を一層悪化させる」と指摘、「聡明さに欠ける」と斬って捨てた。
党機関紙「人民日報」傘下の国際問題評論紙「環球時報」は社説で「北朝鮮は高い代価を払うことになる」と警告。国交の断絶や事態の決裂を意味する「破裂」という言葉を4回も使って、中朝関係の悪化を強調した。
香港の中国系メディア「香港中国評論新聞」(電子版)は「北朝鮮の核実験は中国に惨憺たる戦略的代価を支払わせる」と題して、1.中国の損失は重大、2.北朝鮮は厳重な制裁を受け、甚だしい場合は戦争にまで発展するが、米韓連合軍の敵ではない、3.中国はすでに北朝鮮(の金正恩政権)を転覆させる準備をしている、4.米軍が北朝鮮を攻撃しても中国は傍観するという4点を指摘した。
これらの指摘にどこまで習近平指導部の意向が反映されているかは不明だが、北京大の賈慶国・教授は、仮に米軍が北朝鮮を攻撃した場合、中国が傍観するとした4.の指摘について、「あり得ることだ。北朝鮮が韓国に統合されれば、中国は在韓米軍と国境を挟んで対峙しなければならないという『緩衝地帯』論は古い。いまや、朝鮮半島が統合されても、米軍が国境を越えて中国に攻め込むとは誰も考えないからだ」と語った。
※SAPIO2013年4月号