ことは命にかかわる問題だけに不安は増すばかりだが、日本の常識が通じるわけでもない。中国で発生した鳥インフルエンザについて、現地の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏が解説する。
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中国でまたもや鳥インフルエンザウイルスによるアウトブレイクの危険性がささやかれ始めた。
この原稿を書いている4月5日現在、感染者は14人。うち死者が6人であることが確認されている。感染者はいずれも中国華東地域に限られているが、14人のうち6人が死亡している点を考慮すれば、かなり危険なウイルスといわざるを得ない。
日本として次に心配されるのは当然のことその広がりだ。それを把握するためにも被害状況化を正確に知ることが重要だが、中国では常にここに不安がつきまとう。
今回、中国が鳥インフルエンザを確認してからWHOへ報告するまでの過程に遅れはなかった。その点からすれば世界と中国との価値観の共有が進んだともいえなくもない。だが、中国の問題はそれほど単純ではない。
というのも末端で鶏などの家禽を扱う業者や農民たちが、衛生当局が持っているような強い危機感を共有しているとはとても考えられないからだ。そのことは、鳥インフルエンザによる死者が出たことが大々的に報じられる中でも、市場が強制的に閉鎖されるまで普段と変わらない様子で生きた鶏を売り続けていた市場の様子を見ても明らかだろう。しかも消費者の足も鶏の売り場から遠のいていないという感度の鈍さなのだ。
そうなれば、当局自身が正確な被害状況をつかむこともできなくなっている可能性も指摘できるだろう。
思い出されるのは2003年に中国で猛威を振るったSARSだ。騒ぎは何とか収まったものの結局のところ何が原因で感染経路がどうであったかといった疑問は一向に解明されないままに放置されているのが現状だ。おそらく真相が判ることは今後もないのだろう。
あのとき罹患者は香港から広東省、上海、北京というように広がったが、不思議なのはそれ以外の都市からはほぼ何の被害報告もなかったことだ。本当にそうだったのかは専門家も訝しむ点で、多くの地方で隠蔽が行なわれたとの疑惑が尽きることはない。
もっともSARSの時には「自分の土地から感染者を出すのは恥」といった誤った価値観が政界にあり、この点は明らかに改善されているのだが、問題は前述したような農民や販売業者たちの危機感の乏しい対応やエゴである。
鳥インフルエンザの危険性を無知ゆえに理解しないか、それとも軽視し報告の義務を怠るか、或いは意図的に無視するか。
現状、刹処分された鶏は半値の補償が約束されているが、それを業者が信じるか否かも問題だろう。信じなければ防波堤に穴が開くことは避けられないからだ。