若くて世界的な記録達成に欠ける松井秀喜氏(38)の国民栄誉賞はないんじゃないか──巷間そんな声も少なくない。
では、過去に同賞の授与を打診されながらも辞退した経験のある“世界の盗塁王”福本豊氏(65)は、国民栄誉賞について、どう考えているのだろうか。
「年齢は関係ないと思いますわ。王さん(受賞当時37歳)も、ボクがいわれたとき(38)もほぼ松井と同年齢。松井はマジメやし、野球に取り組む姿勢も青少年たちの憧れにもなれる。ボクが断わったのは年齢が理由ではなかった」
福本氏はノンプロの松下電器から1969年、阪急ブレーブスに入団。1972年にはシーズン106盗塁でメジャー記録を更新。1983年にはルー・ブロックの持っていた通算盗塁記録を抜く939盗塁を達成して、後に表彰の対象になった。
「松下電器の人を通じて、政府が国民栄誉賞を考えてるって聞いたから、『立ちションベンもできんようになるがな』っていいましたわ。ボクはあの頃、酔っぱらったら(立ちション)してたからね。国民の手本にはならへん、無理や、ということで断わりました」
その裏には、他の軽い気持ちから出た言葉とは違う、賞に対する真摯な思いがあった。
「王さんが世界記録を作ったことで創設されたのが第1号。ボクも世界記録やからということでしたが、ボクには王さんのように野球人の手本になれる自信がなかった。野球で記録を作るだけでなく、広く国民に敬愛されるような人物でないといけないという、当時のボクなりの解釈があったんです」
その後、数多くの受賞者が出た今も、その思いは変わっていないという。
「ボクは、麻雀はするし、タバコも吸うし、悪いことばかりしてましたから。受賞してたら、ちょっとしたことでも、ああだこうだいわれたり書かれたりするでしょう。他の受賞者にも迷惑がかかるから、やっぱりもらわんで良かったです」
福本氏が語った国民栄誉賞の重荷を、今後、松井氏は背負っていくわけである。
※週刊ポスト2013年4月19日号