元ボクシング世界チャンピオンとしてより、関根勤の物まねや、団子屋の主人としてバラエティ番組に出演するユーモラスな姿が思い浮かぶ輪島功一。現役選手だったころも、明るさはそのままだったが、ファイトスタイルが常識ではありえないほど変則的だったことでも知られていた。
世界スーパーウェルター級を、負けた相手にリベンジしながら3回も獲得した“炎の男”は、重量級でも日本人が戦えることを証明した先駆者である。 輪島功一は、建設現場で働きながら25歳でデビューすると、新人王、日本王者と一気に駆け上がった。
そして迎えたカルメロ・ボッシとの世界戦で、伝説の「カエル跳びパンチ」が炸裂する。一旦しゃがんで相手の視界から消え、飛び上がりざまにパンチを繰り出したのだ。さらに輪島はこの試合で、わざと横を見て相手がつられて同じ方向を見る隙にジャブを放つ「よそ見パンチ」も出している。
試合は判定で勝利するが、当時の評論家からは「あんなのはボクシングではない」と散々に非難された。しかし、『カーン博士の肖像』(ベースボール・マガジン社刊)の著者でノンフィクションライターの山本茂氏はこう言い切る。
「輪島はスーパーウェルター級としては手足が短い。それに相手は五輪メダリストの技巧派で勝ち目は薄い。相手を怒らせてペースを崩すために試合中に思いついた戦法だったのです。ボッシは輪島の術中に嵌り、戸惑ったままズルズルとペースを奪われた。クレバーでなければできない芸当でしょう」
トリッキーな印象の強いボクサーだが、意外にもカエル跳びは、これ1回きり。その後は正攻法で6度の防衛を達成し、手酷いKO負けを食らいながらも、2度の再戦できっちり同じ相手を倒している。
●輪島功一/1943年4月21日生まれ。北海道士別市出身。1968年プロデビュー。38戦31勝(25KO)6敗1分。
※週刊ポスト2013年4月19日号