中国は主食類だけで年間5億トン以上生産する農業大国である。しかし予想以上の消費の急拡大で供給が追いつかず、かつての自給自足体制は崩壊しつつある。慢性的な水不足も解決策は見当たらない。資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏が解説する。
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中国は食生活の変化によって新たな「食糧不足懸念」に直面している。1980年に6000万トンだったトウモロコシの消費量は、最近では2億トンにまで拡大した。かつては主に食用として直接消費されていたのだが、1990年代に入って食肉の消費が増え、家畜の飼料用に使われ始めたからだ。
中国国家統計局によると、1人当たりの年間食肉消費量は1977年に8.3kgだったのが、1985年には18kg増え、2008年には50kgを突破した。今後は香港並みの70kgまで増える見通しだ。食肉生産量も2006年に8000万トンを超え、10年前の約2倍に増えた。他方、1kgの食肉を生産するためには牛は11kg、豚は7kg、鶏は4kg飼料穀物が必要となる。食肉消費が増えるとトウモロコシの需要は飛躍的に拡大する。
結果として、かつて世界有数のトウモロコシ輸出国だった中国は輸入国に転じた。2009年に130万トン、2011年は530万トンをアメリカから輸入するようになった。数年のうちに輸入量は1000万トン規模に膨れ上がり、現在は世界最大のトウモロコシ輸入国である日本(1600万トン)を抜くのは時間の問題とみられる。
大豆も十数年前までは自給していた。しかし食用油などの消費拡大を背景に輸入に頼らざるを得なくなっている。輸入量は近年右肩上がりに増え続け、今では世界大豆輸入量の6割に当たる約6300万トンをブラジルやアルゼンチンなどから輸入、世界最大の大豆輸入国となった。アメリカ農務省は、中国の大豆輸入が2020年には9000トン規模に増えると予測している。
中国政府は「食糧自給率は概ね95%」としているが、現状をみれば明らかなように、すでにそれを維持できなくなっている。トウモロコシや大豆の消費がこれ以上増えると、世界の穀物の需給関係が一気に逼迫しかねない。
※SAPIO2013年4月号