連合によれば、今春闘での傘下の大手企業1456組合の平均賃金引き上げ額は、前年比でなんと月額「51円」の増加にすぎなかった。これから交渉本番を迎える中小企業や下請け企業の春闘はもっと厳しい。
自動車業界では円安による業績回復でメーカー本社は一時金の満額回答が相次いだものの、中堅以下の部品会社は渋い内容だった。その下請けや孫請けとなると業績回復の恩恵は及びそうにない。青息吐息の電機業界はなおさらだ。
そうした中で業績のいい大企業の経営陣が賃上げ抑制のために持ち出したのが、「下請けに無理を強いている」という理屈だった。トヨタは、「仕入れ先や販売店との一体感が損なわれてはならない」とギリギリまで一時金の満額回答を渋り、組合側も最初からベアは要求しなかった。
自動車業界に詳しい経済ジャーナリストの福田俊之氏が語る。
「トヨタをはじめ自動車メーカーの今期の業績からすれば、社員への一時金だけでなくベースアップをして当然です。しかし、自動車業界はこの数年、売り上げ減少を部品や物流コストの引き下げで下請けに転嫁して業績を回復させた。だから賃上げすると関連会社や下請けの経営陣まで『われわれは血を流しているのに、元請けだけ賃上げか』という従業員の突き上げを受けて追随せざるを得なくなる。
そこで従業員側に『下請けに無理を強いている。我々だけ賃上げしたら下請けから総スカンを食う』と説明してベアを諦めさせている。元請けも下請けも経営者は従業員の賃金を上げたくないというのは同じ。その結果、これだけの業績を上げながら賃金は低く抑えられている」
3月末には、JR名古屋駅周辺で自動車産業の下請けや非正規労働者の組合が〈トヨタ自動車労組は大幅賃上げ獲得。しかし多数の非正規労働者や下請け孫請けの運送会社の低賃金、劣悪な労働条件は変わらず〉と賃上げを批判するビラを配っていたが、それさえ経営側にとっては“下請けが大変だからベアは無理”という賃上げ抑制の格好の口実になる。
日本のサラリーマンの平均年収は平成9年の467万円から、平成23年には409万円へと約12%も下がった。専門家は「非正規労働者が増えたことが平均年収を押し下げている」と説明しているが、実は正社員の年収ダウン率はもっと大きい。厚労省の賃金構造基本統計調査によると、正社員のボーナス支給額は同じ期間に年間約111万円から約82万円まで3割近くダウンしている。
今年の春闘で大手企業の一時金は増えたが、そのくらいではまだリーマンショック前(2007年)の水準にも戻っていない。実際にはボーナスアップではなく「下げ止まり」に過ぎないのだ。
※週刊ポスト2013年4月19日号