名優たちには、芸にまつわる「金言」が数多くある。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、その言葉の背景やそこに込められた思いを当人の証言に基づきながら掘り下げる。今回は、演技力が深みを増す夏八木勲の“気づき”ついて紹介する。
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夏八木勲は、最近では映画『希望の国』で原発事故に遭った酪農家の悲劇を切々と演じたことが高い評価を受けるなど、その演技力は益々深みを増している。
役者人生は、慶應大学在学中に劇団文学座の研究所に入所したことに始まる。が、一年の研修期間では上手くいかず、今度は大学を中退して俳優座の養成所を受験、これに合格した。この時の同期生には他に原田芳雄、林隆三、地井武男、村井国夫、前田吟、小野武彦、高橋長英、太地喜和子、栗原小巻といった後に映画演劇界を担う若者たちが顔を揃えていて、「花の十五期生」と呼ばれることになる。
「俳優座の養成所は三年間あって、それが大きかったと思います。一年じゃあ、短すぎる。三年間も四十人くらいの若者が芋を洗うみたいにゴロゴロしているわけですから、その中で自然と自分のキャラクターみたいなものを意識せざるをえなくなっていったんじゃないですかね。
バラバラの奴らはバラバラのままでいいんだ、と。『あいつはいい声を出して芝居も上手いけど、あいつに似ることはない。俺は俺でいいんだ』ということを三年間かけて気づいていったんです。僕なんかは一番年上だったから、余計にそういう意識はありましたね。三年の時間という『篩』(ふるい)の中で残ったのが、そいつの個性なんだと思います」(夏八木)
※週刊ポスト2013年4月19日号